生物は様々な環境に生息しているが,種によって生息できる環境の幅が異なっている。たとえば,同じネズミ仲間の生物の間でも,ハツカネズミのように森林や農地など多様な環境に生息している種がいるのに対し,砂漠という特定の環境にしか生息していないトビネズミなどもいる。
東北大学は,あるタイプの遺伝子の数の違いが,哺乳類の環境に適応する能力差を決めるカギになっている可能性を研究で示し,全ゲノム情報が既知の哺乳類30種のゲノム上にある「重複遺伝子」(1つの遺伝子がコピーされて2つの遺伝子になるときにできた遺伝子)の数を比べ,種の生息環境の多様性が大きいほど重複遺伝子数が多いこと見出した。
特定の環境にしか生息できない種は,地球温暖化などの環境変化に対して大きな影響を受けるのに対し,多様な環境に生息できる種は,新しい環境や変動する環境にも耐えることが容易だと思われる。しかし,多様な環境に適応できる能力はどういうメカニズムで生まれるのかは,ほとんど分かっていない。
研究グループは先行研究において,ショウジョウバエ11種のゲノムデータを用いた解析で「重複遺伝子」について同様の傾向を見出しており,重複遺伝子の数と生息環境多様性には一般性があることが強く支持された。
また,哺乳類はショウジョウバエと異なり5億年前に「全ゲノム重複」(長い生物進化過程において,希にゲノム(全遺伝子)が重複する大イベント)を経験しており,全ての遺伝子が重複遺伝子となった進化的背景がある。
生息環境多様性は全ゲノム重複により重複した遺伝子「オオノログ」(ゲノム重複後も消失せずに重複した遺伝子コピーを保持している遺伝子)とは相関がなく,ゲノム上で小規模に重複(small-scale duplication,SSD)してできた重複遺伝子「SSD遺伝子」と強い相関があることも示された。
現在,気候変動などによる環境の急変で絶滅する生物が増えることが懸念されており,生物の保全計画の策定は世界的に急務となっている。どのような生物種が環境の変化に弱いのかを事前に知ることは保全の優先順位を考える上で重要だが,環境変化への強さを測る指標はこれまでなく,実際は不可能だった。
今回の研究結果は重複遺伝子数がこの指標に利用できる可能性を示しており,実用化できれば全く新しいアプローチで科学的に生物保全を進められることが期待できる。
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