九大,植物の核の移動メカニズムを解明

光の強さが光合成には不十分なとき,植物の葉緑体は細胞内の明るい場所に移動する。逆に光が強すぎるとき,光による傷害を避けるため,葉緑体は光を回避できる場所に移動する。このような現象を葉緑体光定位運動と呼んでおり,これは植物の生存に必須な生理現象である。

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九州大学大学院理学研究院特任教授の和田正三氏の研究グループは,葉緑体だけでなく核も光により細胞内を移動すること発見している(核光定位運動)。葉緑体が発達した葉肉細胞だけでなく,未発達の葉緑体(「プラスチド」と呼ぶ)しか存在しない表皮細胞でも核光定位運動は誘導される。

核光定位運動は光情報を効率よく利用するためや,紫外線による傷害を回避するためと考えられている。核光定位運動は葉緑体運動と同様にフォトトロピンによって制御されており,またアクチン繊維を利用していることが知られていた。しかしながら葉緑体に比べて遥かに大きい核がアクチン繊維をどのように利用して細胞内を移動するかは明らかでなかった。

研究グループが葉緑体光定位運動ができない変異体で核光定位運動を調べたところ,葉肉細胞でも表皮細胞でも核光定位運動は起きなかった。このことは,核光定位運動は葉緑体光定位運動と同じメカニズムを使っていることを示唆している。葉緑体光定位運動は葉緑体上の細かいアクチン繊維が光によって再構成されることにより運動の方向やスピードが決定されるが,核には同じようなアクチン繊維の構造は観察されなかった。

そこで,観察の容易な表皮細胞を使い,さらに詳細な観察をした結果,表皮細胞には必ずプラスチドが存在し,その内の数個のプラスチドが核に密着していた。さらに,プラスチドは葉緑体運動に使われるものと同じアクチン繊維により光定位運動を示し,その運動は核の光定位運動と完全に一致した。

この発見は今後,ストレス環境下において起こる迅速な核—葉緑体間のコミュニケーションのメカニズムの研究に貢献することが期待される。

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