国立環境研究所環境計測研究センター主任研究員の内田昌男氏と海洋研究開発機構は,海底堆積物コアに保存された有孔虫化石の放射性炭素同位体の分析から,千年スケールの時間分解能で完新世(過去1万年間)における北太平洋の中・深層水循環変動の実態解明に成功した。
この研究は,下北半島沖の水深1179m地点で採取された海底堆積物コアを用いて行なわれた。海底堆積物コアは,2005年に海洋研究開発機構の地球深部探査船「ちきゅう」により採取されたもの。採取された海底堆積物コアを厚さ1-2cmに分割し,堆積物中に保存されている浮遊性有孔虫,底生有孔虫化石を取り出し,それらの有孔虫化石の放射性炭素年代測定を行ない,当時の中・深層水の年代を試算した。
この結果を用いて,最終退氷期後期に当たる12000年前から500年前までの期間について,浮遊有孔虫及び底生有孔虫の放射性炭素年代測定から,北太平洋中・深層水循環変動を復元した。
その結果,特に7500-6000年までの期間には、中・深層水循環の変動が大きく,わずか数百年の期間に大きく変動していたことがわかった。これは,偏西風帯が南へ移動した結果,南極大陸周辺における大気循環が一時的に強まり,南極地域の気温上昇,南大洋の水温が上昇したことにより,南大洋における深層水(南極深層水)の形成が活発になったことが原因と考えられる。
一方,もう一つの深層水である北大西洋高緯度(グリーンランド沖)に端を発する北太平洋深層水の形成がこの時期活発になっており,南北両半球における深層水形成が同調していた可能性があることもわかった。
これは,深層水形成の強弱と連動した温暖化,寒冷化のモードが,逆位相の関係となるバイポーラーシーソーメカニズムが成立せず,同位相で変動している可能性が認められるもの。このことから,完新世においては,バイポーラーシーソーと異なる新たなメカニズムの存在の可能性が考えられ,今後の研究の進展が期待される。
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