岡山大学大学院自然科学研究科地球生命物質科学専攻錯体化学分野大学院生の三橋了爾氏,准教授の鈴木孝義氏,自然生命科学研究支援センター助教の砂月幸成氏の研究グループは,ルテニウムイオンに配位結合したテトラヒドロピリミジル基の酸化還元挙動と酸塩基反応性を調査した結果,塩基の添加により温和な条件下で4 電子酸化され,ピリミジル基に変換されることを明らかにした。
金属イオンに配位結合したある種の化合物を,水素イオン(H+:プロトン)の脱離と電子(e–)
移動を共役させて酸化する方法は,プロトン共役電子移動(Proton-Coupled Electron Transfer:PCET)といわれ,生体内での多くの触媒的な化学反応に関与していると考えられている。
今回の研究で用いたテトラヒドロピリミジル基のピリミジル基への酸化には,4 電子と4 プロトンの移動が伴い,一般に強い酸化剤と高い反応温度を必要とする。このテトラヒドロピリミジル基を含む有機物がルテニウム(Ru)イオンに結合した金属錯体では,金属イオンの酸化数が+2(RuII)の場合には解離が非常に難しかったN–H 基が,ルテニウムを(RuIII に)酸化すると容易にプロトンを脱離するようになった。
この時,同時に有機物からの電子の放出とプロトンの脱離が連続的に起こり,テトラヒドロピリミジル基はピリミジル基に変換した。つまり,ルテニウムイオンを一旦酸化し,塩基を加えることにより,プロトンと電子の放出が容易になり,温和な条件下でも有機物を4 電子酸化することが判明した。
通常は高い反応温度や強い酸化剤を必要とする多段階酸化反応を,金属イオンへの配位結合と塩基による水素イオンの脱離を組み合わせることにより低エネルギーで実現したこの反応は,人工光合成の鍵反応である水の酸化にも応用できると期待される。
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