ショットは機能性ガラスのポートフォリオを強化している。中でも製品開発や基礎研究分野に欠かせない機能と品質を備えたガラスを取り扱う「アドバンスドオプティクス事業部」は,光学フィルタとウエハ/薄板ガラスを注力分野としているが,9月2日,記者懇親会を開催してその製品展開を解説した。
同社の光学フィルタである「ブルーガラス(Blue Glass:BG)」は近赤外光を吸収する機能を持つ。これは,人間の眼には見えない近赤外域にも感度を持つ,CCDやCMOSの色再現性を向上させるだけでなく,反射型フィルタに起こるゴーストイメージの発生を防ぐ役割もあり,主にデジタルカメラや携帯電話のカメラに使われている。
BGシリーズはBG60,61,62,63,64がラインナップされており,カットオフ波長と厚みによって製品を選ぶことができる。具体的には,BG60(カットオフ波長633nm,厚さ0.3mm),BG61(同644nm,同0.3mm),BG62(同644nm,同0.21mm),BG63(同614nm,同1.5mm),BG64(同619nm,同3mm)となっている。
また,より薄いモデルとしてVGシリーズがあり,日本国内ではVG20が提供されている。これは厚さ0.2mm(カットオフ波長627nm)を達成している製品で,携帯電話のカメラのようなスペースが限られた製品への適用を想定している。また,VGシリーズの他のラインナップは年内の導入が予定されている。
BGシリーズの特長として,高い耐久性がある。通常のリン酸塩ガラスを用いたブルーガラスは,水と反応することで表面の腐食が起こりやすいが,新たに開発したフツリン酸ガラスのBGは,温度85℃,相対湿度85%の環境下において,500時間以上の加速劣化試験にも耐えることができるようになった。フツリン酸ガラスは溶解や加工が困難で,これまでは製品化が難しかったという。
今回紹介のあったもう一つの製品は,プリンタブルエレクトロニクスの基板として期待の高い,曲げることが可能な超薄板ガラスだ。厚さは25~100μmで,シートもしくはロール状で提供される。大きさはシートの場合は300×300mm,ロール状の場合は長さ数百メートルでのオーダーも可能だという。
超薄板ガラスの製造に当たり,同社では連続ダウンドロー方式を採用した。これは混合した材料を溶解炉に入れ,液状にしたガラスを上方から圧延しながら降ろす製造法で,一気に薄板状に加工することで,表面粗さ1nm未満の火造りガラス表面を実現する。また,ガラス材料を変更することが容易で,オーダーがあれば翌日には異なる材料での製造も可能だという。
このような超薄板ガラスの品質を保持するには,カット工程も非常に大切だという。超薄板ガラスに発生する割れのほとんどが,ガラスのカット時に,切断面に生じるマイクロクラックが原因となるからだ。同社ではこれを防ぐためにレーザを用いたカット技術を独自に開発。レーザを用いることで,端面をなめらかに仕上げ,割れにくい超薄板ガラスを実現した。
超薄板ガラスのラインナップには,アルカリフリーガラスの「AF32® eco」とホウケイ酸ガラスの「D263®T eco」がある。「AF32® eco」はシリコンと同等の熱膨張係数を持ち,組成がエッチングにも適していること,また600℃の高温にも耐えられることから,プリンタブルエレクトロニクスに適している。またこの製品はウエハでも提供され,その場合の直径は4~12″となっている。
また「D263®T eco」は,高い化学的耐性を持っており,抵抗膜式タッチパネルや,携帯電話のカメラモジュール用赤外線カットフィルタ用の基板などに適しているほか,電子部品用途において,プラスチックの代替品としての利用にも適しているという。
ロール・トゥ・ロールで生産するプリンタブルエレクトロニクスの注目は高いが,導入には大規模な設備投資が必要になることから,各社ともに様子見の状態だという。ロール状で提供が可能な超薄板ガラスは日本メーカからも発表されているが,まだ実際に量産ラインに納入されている例は無いようだ。しかし「中・小型パネルメーカの中には導入に前向きな姿勢を見せているところもある」(同社セールスマネージャー)といい,今後の展開に注目したい。