KEK物質構造科学研究所教授の足立伸一氏、准教授の野澤俊介氏、研究員の佐藤篤志氏らの研究グループは、韓国科学技術大学(KAIST)教授のイ・ヒョッチョル氏の研究グループとの共同研究により、 溶液中のヨウ化物イオン(I3–)がパルスレーザー光照射により分解する反応に伴う分子構造の変化を100億分の1秒(100ピコ秒)の時間精度で捉えることに成功した。 その結果、溶媒の極性(電気的偏り)が高くなるにしたがって、溶液中の三ヨウ化物イオンの分子構造の対称性が徐々に破れてゆくことを実験的に初めて明らかにした。
研究グループは、三ヨウ化物イオンを、それぞれ極性の異なるアセトニトリル、メタノール、水に溶解してパルスレーザ光を照射し、ヨウ素分子(I2–)と ヨウ素原子(I)に分解する反応前後の構造変化を時間分解X線溶液散乱法によって精密に測定した。その結果、極性の低いアセトニトリル中では、三ヨウ化物イオンが直線状の対称構造を取っているのに対して、極性の高い水中では、三ヨウ化物イオンが折れ曲がった構造を取り、それぞれの結合長が非対称になって、分子の対称性が破れていることが初めて明らかとなった。
この溶液中の分子構造の違いは、三ヨウ化物イオンと極性溶媒との静電的相互作用によって引き起こされていると考えられ、この推論は理論的解析からも裏付けられた。 このように、溶液系でランダムに配向した分子が、超高速光反応によって構造変化してゆくさまをピコ秒オーダーで追跡し、反応前後で分子構造を精密に決定する測定手法は、 基礎研究のみならず太陽光エネルギーの有効活用を目指した高効率な光触媒反応の開発においても、今後重要になると期待されている。
詳しくはこちら。