1.レーザー核融合ロケットとは
1.1boldly go
レーザーフュージョンエネルギーの新展開として,レーザー核融合ロケットに関して述べていきたい。フュージョンエネルギーがもっとも活用される領域の一つが宇宙である。スタートレックの有名な台詞であり,岸田元総理もスピーチで触れた“To boldly go where no man hasgone before”を,まだ未到達の木星の衛星「エウロパ」への有人探査を実現するのは,核融合ロケットしかない。宇宙探索・開発にかかせない駆動源として,フュージョンエネルギーは最適であり,その恩恵は,資源開発にかかる諸課題の解決のみならず,人類の知的認識領域の拡大をもたらす。知的認識領域の拡大は,人類の世界観の変化,例えばアル=イスカンダルの世界帝国構想により,古代ギリシャで生まれたコスモポリタニズムのような世界観の変化が起こるかもしれない。
科学の最も重要な目的の一つは,「我々はどこから来て,どこへ向かうのか?」という問いへの答を見つける事である。「人類の故郷かもしれない」「将来の地球滅亡時には移住も可能である」火星への有人探査は,科学の最も重要な目的を含んでおり,人類がまだ成し遂げていない大きな夢の一つである。NASAを中心とした有人火星探査を見据えたアルテミス計画が進行しているが,既存のロケットでは火星まで半年かけて到達する計画で,長期の閉鎖空間での宇宙滞在は乗組員の精神的影響が懸念される。また,火星までの往復だけで宇宙線による被曝量は1000 mSv 以上になると予測され肉体的影響も大きい。そのため,輸送システムのゲームチェンジャーとして,3 ヶ月以内の火星到達が可能な核融合ロケットの誕生が求められている。
核融合ロケットは,磁場によるプラズマ閉じ込め方式を用いたロケットや,レーザーによる爆縮を用いた慣性核融合方式のロケットなど,様々なタイプの核融合ロケットが考案されている。そのなかで,筆者らは日進月歩でレーザー技術が発展していること,また,複雑な形状のコイルを必要とせず,高エネルギー中性子遮蔽が容易で軽量化しやすいレーザー核融合ロケットが実現可能な解であると考え,研究を進めてきた。
フュージョンエネルギーを利用した核融合ロケットは,現在主流の化学推進システムの燃料(酸素と水素やメタン)の化学反応で生成されるエネルギーと比較して,単位質量あたりに発生するエネルギーが7桁大きいため,高温プラズマが容易に得られる。そこで,図1に示すように,高強度レーザーを用いて核融合反応を起こして生成された高温プラズマを,固体壁ではなく磁場による壁,すなわち磁気圧によって運動方向を変える革新的な磁気スラストチャンバシステムによって推進力を得る。このため,核融合ロケットは,従来の推進機では不可能な,高い排出速度(すなわち低燃費)と大推力および長寿命を同時に達成可能である。例えば半年の火星往復において,従来のロケットで小型タンカーと同等の4万トンもの燃料が必要となるが,核融合ロケットでは,100分の一以下の240トンで可能となる。古くから概念設計が行われ,2000年代に米国で再デザインされたVehicle forInterplanetary Space Transport Application(VISTA)モデルにおいても,燃費の指標である比推力(単位質量流量あたりの推力を重力加速度で割ったもの)は15,000秒とSpaceXが検討中の有人火星探査ロケットの360秒と比較して2桁大きく,惑星航行における核融合ロケットの優位性は示されている。
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