2014年はウェアラブルデバイスが躍進すると期待されており,Google GlassやTelepathy Oneのようなウェアラブルディスプレイの開発が注目を集めている。機能の一部をスマートフォンに任せることで,これまでもさかんに開発されてきたHMD(Head Mount Display)と比べて格段に小さく,軽くなっており,まさに「着る」感覚となっているのが大きな特徴だ。
■福井大,網膜走査ディスプレイに適した超小型レーザ合波器を開発
ウェアラブルディスプレイの表示方式には,超小型であると共に映像が実空間と重畳できることが求められる。網膜走査ディスプレイは,レーザ光をMEMSを用いて網膜上に走査する。ピント機構が不要で,映像もそのまま背景と重畳されるため,ウェアラブルディスプレイとしてポテンシャルが高い方式の一つだ。
現在,代表的な網膜走査ディスプレイとして,ブラザー工業が業務用HMD「AiRScouter」を発売している。しかしその構成は,接眼部を備えたメガネ部分とコントローラーボックスとに分かれており,ウェアラブルディスプレイとしては大きすぎる。これはRGBのレーザ光源とそれらを合波する光学系がまだ大きく,接眼部と一体化できていないためだ。
この問題に対し,福井大学大学院 工学研究科教授の勝山俊夫氏は,光通信の波長多重などに用いられる方向性結合器型スイッチを利用した導波路型三原色合波器を考案した。埋め込み型シリカ系ガラス導波路を用いて集積化にも成功。全長7 mm以下という超小型化を実現している。
方向性結合器は,光導波路のコアを波長の数倍間隔に近づけることで導波路間に起こる光結合を利用した光スイッチで,光導波路型合分波器として光通信では一般的に使われている。勝山氏が考案したのはRGB 3本の導波路を基板上に製作し,方向性結合器を用いてレーザ光を1本の導波路にまとめることで合波器として機能するというもの。
しかし通信の波長多重とは違い,RGBではそれぞれの波長が大幅に異なるため,合波器の構造に工夫が必要となる。具体的には,B,G,Rの順にコアサイズ2 μmの導波路を並べ,光結合が起こる光スイッチ部をBの導波路に2ヶ所設けた。さらにGの導波路を挟んで反対側となるRの導波路には,Bの2つの光スイッチの間に位置するように光スイッチを設けることで,3波長の合波が可能になった。
試作した合波器の出力特性を調べると,RとGが入力光の98%,Bも92%が出力されており,効率が高いことが分かった。また合波器はそれぞれ640 nm(R),520 nm(G),460 nm(B)のシングルモードに最適化してあるが,波長が±10 nm程度変動しても,RGB共に90%程度の出力を保持することができ,ロバスト性が高いことも示された。さらに,断面が正方形のコアを用いているので,偏光方向を変えても出力が変化しないことも確認しているという。
従来の合波器はミラーやレンズを用いた機械的な機構のため,振動によって光軸がずれる可能性があった。この合波器はガラス基板上に集積化しているのでそうした衝撃に対して信頼性が非常に高く,体積も大幅に小さくなっている。厳しい使用環境が予想されるウェアラブルディスプレイに適したデバイスと言えそうだ。
この合波器は,方向性結合器の製造プロセスを転用するだけで作製できるという。しかし勝山氏は「合波器だけ小型化ができても仕方がない」として,今後はPLC(Planar Lightwave Circuit)によるデバイスの製作と共に,パッシブアライメントによって半導体レーザを集積化して光源と一体化したデバイスを実現し,ウェアラブルディスプレイだけでなくマイクロプロジェクタなどの超小型レーザディスプレイにも応用したいとしている。