名古屋大学の研究グループは,スウェーデンのウプサラ大学,ドイツのユーリッヒ研究所との共同研究により,透過型電子顕微鏡のナノ電子プローブを用いた強磁性体磁気モーメントの原子面分解能での定量測定に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
強力な永久磁石や磁気記録媒体などのスピントロニクス材料の機能発現は,結晶粒界や格子欠陥などの微細な組織制御に基づいており,これらの材料を開発する上でナノメートルオーダーの空間分解能で磁気特性を測定することが不可欠となってきている。
研究では,固体中の電子遷移確率がスピンの向きによって異なる「電子磁気円二色性(EMCD)」と呼ばれる性質を利用して,磁性元素における磁性発現の起源である軌道モーメントとスピンモーメントを原子面分解能で定量的に測定する新しい技術を開発した。
この測定原理が欧州で提案された後,究極の空間分解能としての原子レベル測定を目指してきたが,信号強度が小さいためにこれまで信頼できる定量測定が困難だった。
研究グループでは,名古屋大学の収差補正分析電子顕微鏡を用い,原子レベルにまで小さく収束させた入射電子と原子面との相対位置によって信号強度が振動的に現れる性質を利用して,従来の測定手法の持つ欠点を克服した。
この成果によって,磁性の起源となる基本的物理量を,原子面分解能で元素選択的に測定する道が拓かれた。例えば,微細組織制御によって高い保持力を実現している永久磁石材料において,実際にどのような組織(結晶粒界,析出物など)が最も効果的に磁性を発現しているかを測定する効果的な手法を与えることになる。
また,サブミクロンサイズまでダウンサイジングが行なわれている磁気記録媒体のビットパターンの磁気モーメント分布測定,さらに,遷移金属をドープした酸化物透明強磁性体の磁性発現機構の解明など基礎から応用まで様々な新しい展開が期待できるという。
さらに特殊な専用装置や改造を用いること無く,単純化された実験配置によって遂行可能な本手法を公開することで,世界中の研究者が様々なタイプの磁性体に応用測定をする道を拓いた点においても,この分野の発展を加速する一つのマイルストーンとなるとしている。
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