京大,ナノファイバー構築分子の発見とイメージング法の開発

京都大学の研究グループは,水中で性質の異なる2種類の自己組織化ナノファイバーを自発的に構築する分子ペアを発見し,それらの形成過程のその場観察(イメージング)することに成功した(ニュースリリース)。

細胞内では,タンパク質からできた様々なナノメートルサイズの繊維(ナノファイバー)が存在し,各々が生命機能に個別の役割を果たしている。細胞内には数多くのタンパク質や小分子が存在しているが,特定のタンパク質は自分と同じタンパク質を自発的に認識して結合し,タンパク質ごとに異なるナノファイバーを作り出すことができる。この現象はself‐sortingと呼ばれ,細胞機能の根幹を担う重要な現象。

タンパク質を「積み木」に見立て,この現象を説明すると,多くの種類の「積み木(タンパク質)」がバラバラに入っている箱(細胞膜)の中で,自然に同じ種類の積み木が一列に並ぶ,というような現象。人工の小分子においてもself‐sorting現象を制御することができれば,細胞のような柔軟で多彩な機能を有する材料の創出に繋がると期待できる。

しかしながら,天然のタンパク質とは異なり,合成分子は自己認識特性が低く,簡単に異なる分子と混ざってしまうために,self‐sortingさせるのは困難だったが,研究グループは分子間の相互作用の違いに着目することによってこの課題を解決し,特定のペプチド型分子(BPmoc-F3)と脂質型分子(Phos-cycC6)がself-sortingして2種類のナノファイバーを形成することを見出した。

自己組織化体の観察には,通常は分解能が高い電子顕微鏡や原子間力顕微鏡が多用されるが,それらはサンプルを乾燥させる必要であるため,水中における自己組織化体の動的な物性をその場で観察して評価することは難しい。また,2種類の自己組織化ナノファイバーを見分けるのも同様に難しい。

2種類のナノファイバーの物性を明らかにするためにも,ファイバーの違いを見分けて”その場”でイメージングできる手法の開発が必須だった。研究では,今回発見した分子ペアからなる2種類の異なるナノファイバーを選択的に色付けして光らせることが可能なプローブ分子を開発したことで,乾燥させることなくサンプルの観察を行なえる共焦点レーザー顕微鏡の使用を可能にした。

さらに,各ナノファイバーの化学刺激応答性や光褪色後蛍光回復法(FRAP)による流動性の評価にも成功し,2つの自己組織化ナノファイバーの物性は self-sortingして形成した場合と,単成分のみで形成させた場合で変化していないことが示された。

合成分子のself-sortingによる2種類のナノファイバーの構築は,自己組織化マテリアルの複合による高機能材料の開発への第一歩。研究で得られた指針をもとに,様々な分子の組み合わせが検討され,次世代のインテリジェント材料の創出に繋がるものと考えられるという。究極的には細胞のように,環境や刺激に応じて自律的に考えて物性を変化させる,新たな機能材料への発展が期待されるとしている。

しかも,それらは材料となる分子を混ぜて,加熱と冷却を行なうだけのプロセスで出来上がる可能性がある。さらに,開発したイメージング法を駆使することで,合成分子の自己組織化に関する深遠な理解が進むことが期待できる。そのような知見はマテリアルに関する研究のみならず,生物における自己組織化現象の理解と制御についても有用な情報を与えるため,多様な分野へ影響を及ぼすとしている。

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