パナソニックは,有機薄膜を用いたCMOSイメージセンサーにおいて,従来に比べ約10倍の明るさまで忠実に画像を撮像できるグローバルシャッター技術を開発した。
従来のグローバルシャッター機能を有するイメージセンサーでは,各画素内にメモリを設け,光電変換した信号を格納することで,機能実現を図っていたが,メモリを設けることで画素内受光部の有効面積に制約を受けるため,飽和信号量が低下してしまうという課題があった。また感度を変えた多重露光撮像も面積制約から実現が難しいという課題があった。
今回以下の3つの技術を開発した。
1.光電変換部と回路部を独立設計可能な有機薄膜を用いたCMOSイメージセンサー設計技術。
従来のイメージセンサーは,受光部のシリコンフォトダイオード,金属配線,カラーフィルター,オンチップマイクロレンズで構成されており,光を電気に変換する機能,かつ,信号電荷を蓄積する機能は,共にシリコンフォトダイオードで行なわれていた。一方,有機CMOSイメージセンサーでは,光を電気信号に変換する機能を,シリコンフォトダイオードに代えて有機薄膜で信号電荷を蓄積し,電気信号の読み出しを行なう機能を下層の回路部で完全独立に行なっているため,以下の特長を実現できる。
入射光線範囲を60度に拡大,忠実な色再現性を可能に。
シリコンフォトダイオードに代えて,光吸収係数が大きい有機薄膜を採用することで,シリコンフォトダイオードの数分の1となる0.5μmまで薄膜化を実現。従来のシリコンフォトダイオードでは2~3μm程度の深さが必要なため,光線入射角が30~40度に制限されていたが,有機CMOSイメージセンサー技術では,薄膜化により,60度の広い入射光線範囲を実現できる。このことにより,斜めから入射する光を効率よく利用することができ,混色のない忠実な色再現性を可能にする。また,レンズの設計自由度が増し,カメラの高性能化,小型化につながる。
従来比1.2倍の感度を実現し,暗いところでもクリアな映像を撮像可能。
有機CMOSイメージセンサーの構造は,同社の半導体デバイス技術で形成した,画素内のトランジスタや容量などの回路部の上に,有機薄膜を積層する。従来のイメージセンサーでは,各画素に,シリコンフォトダイオード以外の部分に光が入射するのを防止する遮光膜を形成する必要があったため,受光部分の面積が制限されていた。しかし,有機CMOSイメージセンサーでは,全面に有機薄膜を形成することが可能なため,センサー面上で受ける光を全て有機薄膜で受光することができる。これにより,従来比1.2倍の感度を実現し,暗いところでもクリアな映像を得ることができる。
有機薄膜、回路部を完全独立に設計し,カメラの高機能(高飽和)を実現。
有機CMOSイメージセンサーの構造は,光を電気信号に変換する有機薄膜と,信号電荷を蓄積し,電気信号の読み出しを行なう回路部を完全独立に設計できる。このため,有機薄膜を自由に選択することで,波長,感度など,光を電気信号に変換する時の特性を自由に設定することが可能。また,従来のイメージセンサーでは,各画素に,シリコンフォトダイオードとトランジスタや容量などの回路を共に配置する必要があったため,回路の面積が制限されていたが,有機CMOSイメージセンサーでは,シリコンフォトダイオードを形成する必要がないため,シリコン基板上に,高速,広ダイナミックレンジ,高飽和といった高機能な回路を搭載することが可能になる。
特に,従来のイメージセンサーでは,シリコンフォトダイオードに蓄積していた信号電荷を,有機CMOSイメージセンサーでは,光を電気信号に変換する部分とは別に,信号電荷を蓄積するための大きな容量を設けることで,蓄積電荷の飽和値を従来のイメージセンサーよりも飛躍的に増大させた構成を実現できる。
2.有機薄膜の感度制御によりグローバルシャッター機能を実現する「光電変換制御シャッター技術」
従来のイメージセンサーでは,画素内にメモリを設けることでグローバルシャッター機能の実現を図っていたため,画素内に追加したメモリ部が光電変換部面積を圧迫し,グローバルシャッター機能搭載時には飽和信号量が減少してしまうという課題があった。
開発した「光電変換制御シャッター技術」では,有機薄膜に印加する電圧を調整し,光電変換効率を制御することのみでシャッター機能が実現可能であり,画素内に新たな素子追加をする必要がなく飽和信号量が減少することがない。さらに画素ゲイン切替え回路による「高飽和画素技術」により,従来のグローバルシャッター機能を有するCMOSイメージセンサー比約10倍の飽和信号量を実現できる。
また,従来のようなローリングシャッター動作もセンサー駆動の設定切り替えだけで実現可能。この技術により,明暗差の大きいシーンにおいて,画質劣化やシャッター歪みのない画像取得や,フラッシュバンド,LEDフリッカといった画質課題解決を可能にした。
3.露光毎の感度を可変とする「感度可変多重露光」技術
従来の多重露光撮像では複数枚の画像を同時に取得するが,同一感度設定の画像取得しかできなかった。一方,同社では,有機薄膜に印加する電圧や印加時間を変化させることで感度を可変にできる,従来シリコンセンサーでは実現できない特長を活かした「感度可変多重露光技術」を新たに開発した。
この技術の開発により,1回の撮像で動体速度に合わせた最適露光が得られることによる動体・文字認識や,時間に応じた感度濃淡を付けた撮像を行なうことにより動き検出時の進行方向情報の取得が可能になる。この技術は,動体検知や動き方向のセンシングを可能とする。
これにより,例えば回転するプロペラのような動く被写体の撮像時に,従来のシャッター機能で発生していた画像歪みが生じることなく,動きを正確に捉えることができる。また,被写体速度に合わせた撮影による動体・文字認識や,動き方向の検出が可能。これまで適用が難しいと考えられてきた高速被写体撮影など新たな用途への展開・拡大が期待されるとしている。