東大ら,最遠方の超巨大ブラックホールをガンマ線で発見

東京大学,京都大学,東海大学らが研究を進めるMAGIC国際共同研究チームは,宇宙論的距離にある活動銀河「PKS1441+25」から放出される高エネルギーガンマ線を初めて発見した(ニュースリリース)。

高エネルギーガンマ線放射は,天体から地球へと伝播する途中,宇宙空間に漂う可視赤外背景放射の光子と反応し吸収されてしまう。この可視赤外背景放射は,宇宙の星・銀河形成の歴史の産物であることから,この量や分布を理解することは,宇宙の進化の過程を理解するための重要な手がかりとなる。

活動銀河PKS1441は約75億光年かなたに位置している超巨大ブラックホール。つまり,この天体からのガンマ線は宇宙の138億年の歴史の半分以上の時間をかけて地球に到達したことになる。この天体は,高エネルギーガンマ線の放射が確認された最遠方の天体。今回の成果から,可視赤外背景放射光が紐解く宇宙の進化の様子を,高エネルギーガンマ線を活用して宇宙初期まで遡って検証することが初めて可能となった。

このような高エネルギーガンマ線の観測には,大きく二つの課題があった。一つは,宇宙から飛来するガンマ線に対して地球は大気で守られているため,宇宙ガンマ線は地上では直接観測できないことにある。観測装置を「衛星」として宇宙に打ち上げて宇宙空間から観測するには,宇宙から飛来する高エネルギーガンマ線光子は非常に数が少なく,有意に検出するためには巨大な検出器が必要となり,宇宙に打ち上げることができない。

そこで考えられたのが「大気チェレンコフ望遠鏡」と言う天文学の新しい方法。この望遠鏡は,高エネルギーガンマ線が地球の大気原子核と衝突し生成される荷電粒子(電子・陽電子)が発する「チェレンコフ光」を検出することで,ガンマ線が大気に突入したことを同定し,間接的に高エネルギーガンマ線を観測するという仕組み。つまり,地球の大気が検出器の役割を果たすことになる。

今回の観測に用いたスペイン領カナリア諸島のラパルマ島に位置する「MAGIC望遠鏡」は,この方式を活用して,地上にて高エネルギーガンマ線観測をかつてない高感度で実現している。

二つ目は,活動銀河の性質そのものに関連している。この天体の活動性は非常に変動が激しく,天体からの放射を検出するためには,放射強度が劇的に増す「アウトバースト」の瞬間を捉える必要がある。そのため,天体の状況を時々刻々と追う「監視体制」を国際的なネットワークを通して構築することが不可欠となる。

ここで,NASAが中心となり運用し,日本からも広島大学,東京大学等が参加している「フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡」が重要な役割を果たした。この観測衛星は,広い視野を持ち,高エネルギーガンマ線帯で約3時間で全天を監視することが可能。その際「アウトバースト」を起こした天体を確認すると,その情報を即座に全世界に伝える体制を持っている。

2015年4月,フェルミ衛星がPKS1441+25からアウトバーストの兆候を捉えたという連絡を受け,MAGIC望遠鏡の観測視野をPKS1441+25へと向けることにより,今回の高エネルギーガンマ線の発見へと繋がったという。このことから,衛星と地上望遠鏡のネットワークを最大限に活用した,国際色豊かな成果だとしている。

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