東京大学の研究グループとWIDEプロジェクト,NTTコミュニケーションズと国内外のネットワーク機関による国際共同チームは,100ギガビットネットワークを通信距離にかかわらず高効率利用するTCP通信技術(LFTCP)を確立し,同技術の有効性を日米間100ギガビットネットワークを用い73ギガビット/秒のTCP通信を実現した(ニュースリリース)。
現在広く用いられているTCP通信の限界(本実験ネットワークにおいては29ギガビット/秒)の2倍を超える通信速度を実現したことは世界初となる成果。
新たに登場した100ギガビットネットワークでは,その超高性能のため現在使われているTCP通信技術を用いては性能をフルに活用できず,活用にはUDPプロトコルを用いる,多数のTCP通信を並列に使うなど,通信方式の変更が必要だった。
今回,TCPソフトウェアを改良し,100ギガビットネットワークを遅延時間の大小に関わらず高速なTCP通信で活用するLFTCP(Long Fat pipe TCP)ソフトウェアを開発した。LFTCPは従来のTCP通信速度限界をプロトコルおよびTCPソフトウェアを拡張することにより,TCPプロトコルとしての性質を変えずに100ギガビットネットワークに対応できる。
LFTCPを,精密ソフトウェアペーシング方式と組み合わせることにより,単一のTCP通信で従来のTCP通信の限界を大きく超えることが可能になった。LFTCPはTCPプロトコルであるため,複数のTCPストリームでネットワークを共用する場合にも,公平な帯域の分割利用が可能であるとともに,パケットロスがあるネットワークにおいても信頼性を持ってデータを転送することが可能。
なお,このLFTCPはオープンソース・ソフトウェアとして公開し,他の研究機関等で利用することが可能。
今回行なった実証実験は,2015年11月に利用が開始された,日米間で最初の100ギガビットネットワークであるTransPAC/Pacific Waveネットワークを用い,米国テキサス州オースチン市で開催されたSC15(スーパーコンピューティング2015)国際会議の展示場に設置された東京大学のPC2台の間のデータ通信により実施された。
使用したネットワークは全て100ギガビットネットワーク。実験で用いたネットワークの往復遅延時間は296ミリ秒で,米国テキサス州オースチン市と東京の往復距離は21,153km。なお,実証実験は,このTransPAC/Pacific Wave回線での最初の成果でもある。
実験の結果,通常のTCPを用いると29ギガビット/秒のデータ通信速度(理論値の97.7%)しか得られなかったことに対し,LFTCPを用いると73ギガビット/秒の通信速度を達成した。これは,単一のTCP通信によるインターネット上の通信速度として従来の記録を破る世界最高値となる。
この成果は,これまでのTCPの理論限界の2倍を超えるデータ転送速度を実現し,100ギガビットネットワークおよび更に高速な将来の超高速インターネット利用に道を開いたもの。使用したシステムは通常のPCであり,そのオペレーティングシステムも特殊なものではなく,一般的に入手可能なもの。また,LFTCPは送信側PCに用い,受信側PCでは従来のTCPで受信する。従って,今回実現した技術は広く,容易に利用可能。
この技術により,科学技術データのビッグデータ処理に必要な連続的に生成される超多量測定データの通信に道が拓かれた。東京大学の研究チームが取り組んでいる,IPネットワークで統一するビッグデータ処理システムの基盤技術となるものだとしている。
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