浜松ホトニクスは,豊橋技術科学大学が提唱する,イオン濃度を電荷量として検出する画素技術のライセンス供与を受け,同社のイメージセンサー技術とアセンブリ技術により,高感度なイオン検出用CMOS(相補性金属酸化膜半導体)センサーを開発した(ニュースリリース)。
この技術は,従来の光学式イメージセンサーと異なる,電荷転送型イオン検出用センサー技術。イオン検出センサーには,プロセス工程で感応膜を積層している。計測時には,センサーチップ(検出部)の表面に水溶液を滴下し,分析したい対象物を乗せて,イオンの分布と変化を撮像する接触型のセンサー。感応膜の種類により検出できるイオンを水素イオンやカリウムイオンなどにすることが可能。
検出原理は,水溶液のイオン濃度が分析対象物により変化し,そのイオン濃度に依存して発生する電位の,参照電極電位に対する変化量を電荷信号として読み出す。読み出した各画素の測定値を2次元表示することで,イオン濃度の分布と変化を動画像で観察することが可能になる。
この技術は,通常の光学式カメラに用いるCMOS技術のため,電荷信号を蓄積して動作することで高感度化を実現する。また,検出部は,可視光に感度を持つことから,イオン濃度撮像と並行して通常のカメラ撮像も可能。さらに,画像データを一括して読み出すグローバルシャッターを採用することで,より正確な動画像を取得することが可能。
同社独自のイメージセンサー技術とアセンブリ技術により,量産可能な開発を実現した。感応膜に窒化膜(Si3N4)を積層したもので,検出部が1画素30µm角,256×256チャンネル<フレームレート60Hz,水素イオン濃度(pH)分解能0.1を実現した。
センサーチップ表面に水溶液を直接滴下するため,防水対策として水に強い絶縁膜材料を採用し,センサーチップと周辺部に樹脂を充填している。粘着性の対象物でなければ,計測後にセンサ基板を洗浄して乾燥することで,複数回の使用が可能。
また,感応膜を,カリウムイオンを検出するよう変更することにより,脳研究のために役立てることも可能。
この開発品は医療や農業,化学などの分野での応用が期待されるとしている。例えば,256×256画素
(65,536 画素)に,10×10 画素(100 画素)にマーカーを固定化すると,約600種類の病気を同時に検査することができることになる。
つまり,多種多様な病気のマーカーをワンチップで高感度計測できる可能性があるという。これが実現すれば,世界的な流行が始まったインフルエンザなど感染症を携帯電話程度のサイズで,その場で検査できるようになる。
将来的には,携帯電話のアタッチメント程度にして,親指程度のスティック(USBメモリ程度を想定)を差し込んで,唾液や尿を100µl程度垂らすことで検査できるので,日頃のストレスのチェックなどにも活用できると考えられるという。
同社では来春には第一弾として,水素イオン検出用の製品化にめどをつけ,国内外の各種機器メーカーや研究機関に向けサンプル出荷を目指すとしている。
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