名古屋大学の研究グループは,角度依存性のない青い構造色を示す鳥の羽を参考にして,温度などの刺激によって様々な色に変わる高分子ゲルを開発した(ニュースリリース)。
顔料の中には,耐光性,耐水性,耐薬品性,抗酸化還元性などを有するもの(特に無機顔料)が多いが,無機顔料は毒性の高い重金属を使用した化合物からできているものも多いため,化粧品など,人に直接触れるような用途には使用できる種類が限定されている。
染料に関しても,化粧品などへの配合に関して,規制が厳しくなっていおり,とりわけ,ヨーロッパを中心に広がる環境に対する配慮から,その他の用途への染料や顔料に使用する材質についても,今後ますます規制が強化されると考えられ,低毒性,低環境負荷性を備えた色材が安価に大量に得られるような技術が求められていた。
鮮やかな青色を示すノドムラサキカザリドリなどの羽には,サブミクロンサイズである特定の大きさの細孔が,短距離秩序を持って等方的に分布している。この各細孔には,秩序構造があり互いに干渉して強め合う結果,羽に当たった光は散乱し鮮やかな構造色を示す。
研究グループは,温度などの刺激や環境に応じて体積が可逆に変化する高分子ゲルにこの羽と同様の細孔構造を施し,より鮮やかな構造色を示すための工夫として,少量の黒色のカーボン(CB)の粉を高分子ゲルに導入して,様々な色を示す高分子ゲルを開発した。
これまでの多くの研究によって示された刺激応答型構造発色性材料は,速い応答速度や広い領域での波長変化による多色変化を示す例はあったが,角度依存性のない鮮やかな構造色を示す系はほとんど報告されていなかった。
今回開発したポーラスな高分子ゲルは,その繋がった細孔構造のおかげで,温度変化に応じて素早く体積を大きく変化させることができ,かつ,それに応じて角度依存性のない様々な色を示す性質を持ち合わせるようになった。
コロイドアモルファス集合体を象っただけでは,ポーラスゲルの内部で生じる可視光の非干渉性多重性散乱の寄与が大きいため,肉眼では鮮やかな構造色を観測することはできないが,可視光領域全体に渡って光を吸収するCBをポーラスゲル中に導入することで,非干渉性多重性散乱の寄与を軽減する結果,短距離秩序の存在による干渉性の散乱を原因とした可視光領域に現れる散乱ピークが顕著になるため,鮮やかな構造色を示すようになった。
これまでにも,環境の変化や刺激に応じて,様々な構造色を示す高分子ゲルなどのソフトマテリアルは報告されているが,そのほとんどが構造色には角度依存性があった。今回開発したソフトマテリアルは,角度依存性のない構造色を環境の変化や刺激に応じて変化する。
研究グループは,高分子ゲルの欠点とされている力学特性が改善できれば,化学物質のセンシングや,ペーパー型ディスプレイなどへの利用が期待できるとしている。
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