情報通信研究機構(NICT)は,プロドローン及びサンエストレーディングと共同で,量子鍵配送ネットワークを利用したドローンの飛行制御通信の安全性を強化する技術を開発した(ニュースリリース)。
回転翼を持つ小型無人航空機,いわゆるドローンの技術が急速に進歩する一方で,飛行の安全性対策が喫緊の課題となっている。特に,ドローンの遠隔制御に使われる無線通信は,傍受や干渉,妨害の影響を受けやすく,通信の乗っ取りや情報漏えいなども懸念されている。
今回研究グループは,ドローン制御通信において,制御の乗っ取りや情報漏えいを完全に防御するセキュア制御通信技術を開発した。ドローンの制御は,同装置の無線通信の代表的な方式の一つであるシリアル通信の制御信号(周波数2.4GHzの電波信号)を,パケットごとに異なる真性乱数を用いて暗号化(ワンタイムパッド暗号化)して行なった。
この暗号化は,真性乱数と制御信号パケットの単なる足し算で行ない,従来の暗号化で用いていた複雑な関数や膨大な計算を必要としない。これにより,処理遅延のないセキュア制御通信を,低速処理でも小型かつ安価なデバイスで実現できる。
また,現在市販されている無線装置でのドローン制御距離は1km程度に制限されている。ドローンの運用範囲を拡大するためには,地上局間での制御の引継ぎが必要になる。今回開発したシステムでは,一度使った鍵は二度と使わないワンタイムパッド暗号化を用いているので,複数の暗号鍵(真性乱数)をドローンに搭載し,対となる暗号鍵(真性乱数)をそれぞれの地上局に配送する必要がある。
地上での暗号鍵の配送法には,(1)信頼できる宅配サービス等を利用した人手による配送(第一世代),(2)量子鍵配送ネットワークによる自動配送(第二世代)がある。
今回,2つの飛行制御エリア間で安全に制御通信を引き継ぐ第一世代システムの実証実験に成功した。さらに,NICTが管理運営する量子鍵配送(QKD)ネットワーク「東京QKDネットワーク」で配送された暗号鍵を2つの地上局に供給し,飛行制御を引き継ぐ第二世代の実証実験にも成功した。
今回の第二世代の実験では,ドローンの制御範囲をNICT構内に限定しているが,将来の広域セキュア制御通信技術に必要な原理が実証されたとしている。
研究グループは,地上での暗号鍵の配送に信頼できる宅配サービス等を利用し,通信を使わずに供給する第一世代システムを2年以内に商品化する予定。また,NICT敷地内の東京量子鍵配送ネットワークにおいて第二世代システムの研究開発を継続していく。
量子鍵配送ネットワークをドローンの運用に活用することで,実装上の制約が多いドローン上でも,簡易な方式によって極めて高い安全性を実現できるようになる。加えて,この広域セキュア制御通信技術を用いれば,複数の地上局とドローンから成るネットワークシステム上で,乗っ取りや情報漏えいを防ぎながら,動的に飛行エリアや経路の選択と制御を行なうことも可能になる。
さらに,従来の電波による方式のほか,レーザー光を使った大容量かつ安全なデータ通信ネットワークを実現するための研究開発にも積極的に取り組んでいくとしている。
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