JST戦略的創造研究推進事業において,東京工業大学の研究グループは,液体金属であるガリウムナノ粒子のサイズを可逆的に変化させるプロセスを開発し,金属ナノ構造体が光と相互作用して,その光を吸収する「表面プラズモン共鳴吸収」を制御することに成功した(ニュースリリース)。
金,銀などの金属ナノ構造体は,表面プラズモン共鳴を利用したプラズモニック材料や,電場増強効果による一分子レベルの計測装置への展開が期待されている。その特性は,金属ナノ構造体のサイズ,形状,配列などの形態が決定し,金や銀では,作製した金属ナノ粒子のサイズや形状を,熱や圧力などの外部刺激や化学処理で変化させる方法が知られている。
近年,金や銀より容易に形状を変えられる金属材料として,室温に近い融点を持つガリウムやガリウム合金などの液体金属が注目されている。超音波照射でガリウム液滴からナノ粒子を形成する技術も開発され,液体ガリウムナノ粒子は,金,銀に代わる紫外光に応答するプラズモニック材料として期待されている。
また,生体分子の多くは紫外光領域に吸収を持つことから,紫外光に応答するプラズモニック材料の開発により,さらに高感度な一分子レベルでの計測が可能になると期待されている。
しかし,変化させたサイズや形状を元に戻す技術はこれまで確立されておらず,さらに応用先を拡大するために,液体金属の形状をナノ単位でより自由に調節する技術が望まれていた。
研究グループは,形状を制御しやすいという液体金属の液体としての特徴に着目。ガリウム液滴に超音波を照射すると,超音波の振動で破砕され,分裂と融合を繰り返しながら徐々に小さくなり,最終的にナノ粒子化する。形成された液体ガリウムナノ粒子は,有機溶媒中に保護剤として溶解したドデカンチオールとガリウム表面に形成する自然酸化膜(厚さ約2nm)により安定化される。
強度,温度,時間依存性など超音波照射条件が粒子サイズに及ぼす影響を調べた結果,1)2時間程度の長時間照射により,超音波強度に関わらず同じ粒子サイズになること,2)高温ではバランスが融合に傾き,より大きなナノ粒子(20℃では35nm,50℃では60nm)を形成することが分かった。
これらの結果は,超音波照射で水と油を乳化させる状況と類似している。水と油のエマルション滴の分裂と融合のバランスでエマルション滴のサイズが決まるように,液体ガリウムナノ粒子の分裂と融合のバランスが,粒子のサイズを決める要因と考えられるという。
これらの知見をもとに,1)液体ガリウムナノ粒子を安定化するドデカンチオールの添加量,2)自然酸化膜を除去してナノ粒子の融合を促す塩酸の濃度,3)温度を調節することで,粒子の分裂と融合のバランスを制御した結果,粒子サイズをナノメートル単位で可逆的に制御することに成功した。さらに,この液体ガリウムナノ粒子のサイズ変化に伴い,紫外光領域における表面プラズモン共鳴吸収波長が変化することを確認した。
今回開発した,液体ガリウムナノ粒子のサイズ制御技術により,金,銀など固体金属では困難だった,可逆的でより自由な形態制御が可能となり,用途に応じて光学特性を操るような新しいプラズモニック材料への展開が期待されるとしている。
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