大阪大学は,高出力レーザー装置「LFEXレーザー」を増強し,1兆分の1秒(1ピコ秒)の短い時間内に,最大2,000兆ワット(2ペタワット,世界で使用される総電力の1,000倍)の出力を発生することに成功した(ニュースリリース)。
この高出力レーザーを使うことで,高エネルギーの量子ビーム(電子,イオン,ガンマ線,中性子,陽電子)の全てを発生できるようになった。
これらの大電流量子ビームにより,医療応用や社会インフラの非破壊検査など,長寿社会や安全・安心社会に貢献する新基盤技術を創成できるだけでなく,将来のエネルギー源である高速点火レーザー核融合の実現に向けて大きく前進したことになる。
ペタワットを発生できるレーザーは世界でも数えるほどしか無く,中性子やイオンなどの高エネルギー量子ビーム発生など,基礎物理研究に利用されている。これまで,比較的小さな出力(〜数十ジュール)でこのペタワットが実現されてきたが,大阪大学ではその何十倍もの出力(1,000ジュール以上)のレーザーを世界で初めて完成させた。この高出力化は,大口径の4ビーム増幅器技術と世界最高性能の誘電体多層膜回折格子などにより実現したもの。
また,ペタワットの性能を真に発揮させるには,パルスの裾が急峻である必要がある。例えば,丘陵地に足場を拡げている東京タワーではなく,東京スカイツリーのように平地に竣立したレーザーパルスが望まれている。「LFEXレーザー」はパルスの前に存在する余分な光(ノイズ)をパルスピークに対して10桁低く抑えること(10桁のパルスコントラスト)に世界で初めて成功した。ノイズの高さは,スカイツリーの先端の高さに対してインフルエンザウイルスの大きさに相当する。
これらの先端的な高出力レーザー技術により,真に実用可能なペタワットレーザー装置を実現した。
大阪大学レーザーエネルギー学研究センターは,共同利用・共同研究拠点として,高出力レーザーを用いた様々な研究を推進している。「LFEXレーザー」を活用することで,大電流の高エネルギーパルス量子ビーム発生が可能となり,医療応用(粒子線ガン治療)や橋梁などの非破壊検査(ガンマ線ビームや中性子による欠陥検査)などの実用化研究が期待できる。
また,大阪大学発案の高速点火レーザー核融合方式は,比較的小規模なレーザーで核融合エネルギー発生が可能と予測されている。高速点火レーザー核融合に不可欠な加熱レーザーがこの「LFEXレーザー」の技術で実現でき,核融合点火の成功に向けて大きく研究が前進するものと期待されている。
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