産総研,腫瘍となるヒトiPS/ES細胞を除く技術を開発

産業技術総合研究所(産総研)は,和光純薬工業と共同で,移植用細胞から腫瘍を引き起こすヒトiPS細胞やヒトES細胞(以下「ヒトiPS/ES細胞」という)を除く技術を開発した(ニュースリリース)。

未分化な状態のヒトiPS/ES細胞を移植すると腫瘍を形成してしまう可能性があるため,移植用細胞に残存するヒトiPS/ES細胞を除去する必要がある。しかし,従来の一般的な技術では移植用細胞を前もって1つ1つの細胞に解離してからセルソーターという特殊な装置を用いてヒトiPS/ES細胞を取り除くため,細胞シートなどへの適用ができない,処理速度が遅い,移植用細胞の生存に悪影響を与える可能性がある,などの課題があった。

研究グループは今回,レクチン(糖結合タンパク質の総称)の一種であるrBC2LCNがヒトiPS/ES細胞に結合した後に,細胞内に取り込まれるという現象を見いだした。そこで細胞内に取り込まれるとタンパク質合成を阻害し細胞死を引き起こす緑膿菌由来外毒素をrBC2LCNのC末端部分に融合させた組換えタンパク質(薬剤融合型レクチン)を考案した。

精製した薬剤融合型レクチンをヒトiPS細胞に24時間反応させたところ,薬剤融合型レクチンを培養液に添加していない(0 µg/mL)場合は,ほとんどのヒトiPS細胞が生きていたのに対し,10 µg/mLの薬剤融合型レクチンを培養液に添加した場合,ほとんどのヒトiPS細胞が死んだことを示した。薬剤融合型レクチンはヒトES細胞でも同様の効果を示した。これらの結果から,今回開発した薬剤融合型レクチンを用いると,分化していない各種ヒトiPS/ES細胞を効率的に除去できることが分かった。

分化した細胞への影響を調べるため,薬剤融合型レクチン(10 µg/mL)を,レチノイン酸(RA)で分化させたヒトiPS細胞,皮膚繊維芽細胞,脂肪由来間葉系幹細胞に作用させた。その結果,これら分化細胞は生きていることがわかった。すなわち,薬剤融合型レクチンは,未分化なヒトiPS/ES細胞を選択的に除去し,分化した体細胞の増殖や生存には影響を与えないことが分かった。

薬剤融合型レクチンは,細胞をあらかじめ分離するといった前処理も必要なく,細胞培養液に添加するだけで,培養している分化した細胞に影響を与えずに,未分化ヒトiPS/ES細胞だけを選択的に除去でき,大量の細胞や細胞シートなどへの適用も可能。研究グループでは,再生医療に用いる移植用細胞の製造や,創薬スクリーニングのための細胞調製など,さまざまな用途への応用が期待されるとしている。

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