近大ら,レーザを用いたiPS細胞の品質を維持する装置を開発

近畿大学,シンフォニアテクノロジーおよび三重大学らの研究グループは,iPS細胞の品質を維持するための装置(自動光学式細胞除去装置)の開発に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

iPS細胞を実際の再生医療へ応用するためには高純度のiPS細胞が大量に必要となる。しかし,iPS細胞を大量に培養すると,一定の確率で変質した細胞や自発的に分化してしまった細胞が出現し,これらが増殖することで,iPS細胞の品質が著しく低下するという問題があった。

これまでは,技術者が細胞の変化を顕微鏡で観察し,不要な細胞を手作業で除去しながら品質を維持してきた。しかし,今後は技術者の不足,手作業による感染事故,見落としや技量の差による品質のばらつきなどを引き起こす可能性があり,培養細胞の品質管理は再生医療における最大の課題とされていた。

今回,研究チームが開発した装置(自動光学式細胞除去装置)は,目的以外に変化した細胞を画像解析技術によって認識し,近赤外線レーザを照射することで,これらを非接触的に除去する。具体的には,シンフォニアテクノロジーが開発した特殊な画像解析の技術に,形状の特徴から不要な細胞を識別するプログラムを導入し,不要と認識した部位に近赤外線レーザを照射する。

この装置は培養されている細胞の状態をカメラで監視し,技術者の「目」に頼ることなく,しかも人の手では除去困難なサイズ,数の細胞を短時間で除去する。また,特別な薬剤の使用や,細胞に触れる必要性もないため,安全性も高いと考えられるという。細胞の状態はコンピュータで認識,管理されるため,作業者間で品質にばらつきが出ない。

研究具グループは今後,レーザ照射が周囲の細胞に与える影響を詳しく調べ,悪影響が出ていないことを検証したのち,製品化・販売へと繋げる予定。この装置が普及することで,さらなる再生医療の普及に加え,iPS細胞からは神経や心臓のように個人からの採取が困難も細胞を作れるため,患者の方に合わせた創薬(オーダーメイド創薬)や新薬の開発分野への展開が期待される。

また,研究チームは,画像解析アルゴリズムの改良とソフトウェアの常時更新により,様々な培養パターンに合わせた最適化,最新の知見の反映,神経細胞など特殊な細胞へと変化させた後に,目的とした細胞のみを純化することも計画している。

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