東京工業大学の研究グループは,高周波(RF)無線給電型の超低電力無線機で,多値変調による無線信号伝送技術を開発した(ニュースリリース)。
従来,ミリワット未満の低消費電力では周波数利用効率に優れる直交位相振幅変調といった多値変調の実現が困難だったが,RFID技術をベースとした「直交バックスキャッタリング回路技術」という新技術を駆使して実現した。この技術では,トランジスタの入力インピーダンスを時間的に変化させることで,反射波の周波数変換と振幅・位相の変調を行なう。
この技術では従来のRFID技術のように親機が送信する搬送波を用いることで高周波の周波数シンセサイザを排除する。直交変調器(QMOD)はRF搬送波と中間周波数(IF)で動作するミキサ(IF Mixer)が生成する変調信号(I/Q信号)を乗算することで周波数変換し,5.8GHz帯の多値変調信号を実現する。
従来のRF送信機で用いられている一般的なミキサ回路ではパッシブミキサのように,乗算したい2つの信号の入力と乗算出力が別の端子となる。したがって,RFIDのように1つのアンテナを使って親機が供給するRF搬送波信号を受信し乗算に利用しながら,乗算結果を出力するという動作には適していない。従来のバックスキャタリング技術では親機が供給するRF搬送波信号の受信端子と乗算結果の出力端子を共有できるが,ミキサに入力する信号はデジタル信号となる。
この回路では,デジタル信号ではなくIF帯のアナログI/Q信号を入力する技術を開発することによって,RF搬送波信号を利用してIF帯から5.8GHz帯へ周波数変換を行なった。この結果,バックスキャッタリング変調信号の多値化を実現し,さらにIFミキサとQMODをパッシブ型の回路で構成できるようになったことで,主な電力消費がIF帯ローカル信号生成・分配のみに抑えられた。
開発した無線機は最小配線半ピッチ65nmのシリコンCMOSプロセスで試作し,市販の無線機の10分の1未満である113μWという極めて小さな消費電力で32QAMの信号伝送に成功した。また,この無線機はRF無線給電により生成した電源で動作させた。研究グループは,ワイヤレスセンサネットワークの大容量化・低価格化・端末小型化につながる技術だとしている。
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