NIMS,表面酸化反応への酸素分子スピンの影響を初めて観測

物質・材料研究機構(NIMS)は,電子スピンの向きを制御した独自開発の酸素分子ビームを用い,物質表面への酸素吸着確率が酸素分子のスピンの向きに依存することを初めて明らかにした(ニュースリリース)。

物質表面への酸素吸着は,触媒反応,腐食,酸化膜作製の初期過程として応用上重要となっている。一方,酸素分子は2個の不対電子に由来する電子スピンを持ち,磁石としての性質を持つ。スピンが酸素吸着確率に影響を与える可能性は理論研究により指摘されていたが,スピンを制御した酸化反応実験はこれまで不可能であったため,その影響はよく理解されていなかった。

研究グループは,分子軸とスピンの向きを制御した酸素分子ビームを磁化したニッケル表面に照射し,酸素吸着確率が表面と酸素分子のスピン相対配置に依存することを明らかにした。スピン依存性は酸素分子の運動エネルギーが低い条件下で特に大きく,室温の酸素ガス分子に相当するエネルギーでは40%以上にも達した。

この結果は,鉄,ニッケルなどの強磁性体表面の酸化反応速度がスピンの向きに強く依存することを示唆するもの。これより,上述のように酸素分子は磁石としての性質をもち,分子と磁性体表面との間に磁気的な相互作用が働くことが観測されたスピン依存性の主な起源であると結論した。

固体あるいは液体酸素が磁性を示すことはよく知られているが,酸素分子の磁性は化学反応性にも強く影響することが今回の研究により初めて証明された。

今回の成果は,表面酸化反応をスピンにまで分解して分析する新しい計測手法を確立するもの。また,観測された明瞭なスピン効果は,酸素吸着を扱う理論手法の高精度化に有益な指針も提供すると考えられるとしている。

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