理研ら,「反発力」を利用して垂直方向に耐え,水平方向には変形するゲルを開発

理化学研究所(理研)と物質・材料研究機構(NIMS)らの研究グループは,互いに静電反発する酸化物ナノシートを磁場に対して垂直な方向に配列し,三次元のナノ網目構造を水で膨潤させたゼリー状物質「ヒドロゲル」中に閉じ込めることにより,ユニークな機械的物性が現れる材料の開発に成功した(ニュースリリース)。

電気的・磁気的な「反発力」を利用した装置に,リニアモータや磁気ベアリングなどがある。これらの装置では「引力」を利用するだけでは得られない特別な性能が実現されている。これに対し,セラミックスやプラスチックなどの構造材料では,有機ポリマーと無機粒子とのハイブリッドなどに代表されるように,構成要素間の「引力」を強めることで,強度を高めていた。

しかし,構造材料の設計において「反発力」を利用する試みは全く行なわれていなかった。一方,動物の関節軟骨は,高密度の負電荷を帯びた高分子で構成され,その静電的な「反発力」によって,高い耐荷重性と低摩擦性が実現されている。

研究グループは,水中に分散したイオン性の酸化チタンナノシートに磁場を加えると,全てのナノシートが磁場に対して垂直な方向に配列し,ナノシート同士が互いに面と面を向き合わせてナノシート間に巨大かつ異方的な静電反発力が現れることを発見した。

この水分散液をゲル化すると,静電反発力により内部から支えられたヒドロゲル材料が得られる。この材料は,縦方向の大きな荷重に耐えつつ,横方向には容易に変形するという,通常の材料では実現しにくい特異な機械的物性を示し,防振材料として優れた性能を発揮する。

この機械的異方性の応用として防振がある。水平方向に配向したナノシートを内包するヒドロゲルの上に荷重を乗せ,地面を水平方向に振動させたとき,地面からの振動はヒドロゲルの横方向の変形により遮断されるため,上部の荷重にはほとんど伝わらず,優れた防振機能が達成されるという。

対照的に,垂直方向に配向したナノシート,あるいはランダム配向したナノシートを内包するヒドロゲルでは,このような防振機能は実現されない。注目すべきは,酸化チタンナノシートはヒドロゲル全体の1%に満たない量しか存在しないにもかかわらず,その配向方向が材料物性に対し大きな影響を及ぼす点だという。

今回のヒドロゲル材料には,荷重に耐えるタフな材料,振動を絶縁する材料,あるいは関節軟骨の代替材料など,さまざまな応用が期待できるという。研究グループは今回の発見について,これまで省みられることのなかった「反発力」が,構造材料の機械的物性を制御する上で極めて有用であることを実証するもので,今後の構造材料の設計に大きな影響を与えるとしている。

関連記事「東大,光で形成する粘着性ゲルを用いた生体情報センサを開発」「名大ら,ゲルに柔軟な物性を与える架橋点が自由に動く架橋剤を開発」「阪大,分子認識に基づいて選択的に接着する機能性ゲルを開発」「北大,超高速で変色するゲルによる新たなカラーディスプレイを提案