鳥取大,有機-無機ハイブリッド型紫外線高感度光検出器の開発に成功

鳥取大学は,無機材料と有機材料を組み合わせた有機-無機ハイブリッド型紫外線高感度光検出器(アバランシェフォトダイオード;APD)の低暗電流化(低ノイズ化)・安定動作化,および集積化に成功した(ニュースリリース)。

現在の医療用PET(陽電子放射断層撮影)に必要な微弱放射線の検出には,放射線を可視光に変換するシンチレータを介して真空管式の光電子増倍管で検出する方式が用いられている。そのため,応答速度が遅くかつ装置が大型で壊れやすく高価になるという問題点がある。

一方,放射線を紫外線に変換する高速シンチレータ(LuAG:Prなど:応答速度20ns)を用いることで,高速PETシステムが実現可能になると期待されている。そこで,光電子増倍管を全固体素子である紫外線光波帯アバランシェ・フォトダイオード(APD)に置き換えることができれば,上記の問題が解決されるだけでなく光検出器の集積化も可能となる。

しかしながら,紫外線領域では各材料の吸収損失が大きいため,紫外線波長域専用の集積型APDは実用化されていない。紫外線光波帯の高感度集積型APDが実用化されれば,医療分野だけでなく,微弱な紫外線光検出を必要とする天文分野,科学計測分野,次世代紫外線光ディスクなど多分野にわたり貢献できるものと期待されている。

現在実用化されているAPDの中で紫外線を検出可能なものはSi製のAPDがあるが,Siのバンドギャップが小さいため紫外線の感度は可視光の感度の3分の1まで減少する。また,動作電圧も150Vと高い。そのため,国内外でZnSe,GaN,SiC,ZnOといったバンドギャップが大きい半導体を用いたAPD素子の開発が進められている。

これらのバンドギャップが大きい半導体材料は理想的なダイオードを作製すれば,Siに比べて大幅に暗電流(ノイズ電流)を低減することができると期待されているが,半導体の結晶欠陥により暗電流は理想値を大きく上回り,Siの暗電流を下回る特性を実現しているのはこの研究で対象としたZnSe系のみとなっていた。

研究では,有機層としてPEDOT:PSSを無機層としてZnSSeを用いたZnSe系有機-無機ハイブリッド型APDにおいて,低電圧動作かつ下記の低暗電流化(低ノイズ化)・安定動作化,および集積化を実現して,実用に供しうる紫外線領域の全固体高感度集積型光検出器(光センサ)を世界で初めて開発した。

まず,インクジェット法によるPEDOT:PSS窓層の形成とポリイミド保護膜および窒素封止により,実用化されているSi-APDの暗電流と同程度の暗電流を実現し,APD動作直前(アバランシェブレークダウン直前)までの暗電流維持を実現した。

さらに,ポリイミド有機保護膜により有機-無機界面特有の劣化対策を行なったことにより,100日以上の長期間および500回以上繰り返しAPD動作においてこの低暗電流特性を維持した。また,動作電圧は25V程度と非常に小さく,Si-APDの6分の1,GaN-APDの3分の1であり,集積化にも適している。

このAPDは無機層最表面が高抵抗活性層であるため,素子を物理的に分離するエッチングなどによる素子間分離を必要としないプレーナー型構造を採ることが可能。この特長を利用して,受光面である窓層のスポットによる素子間分離のみで3つのAPD素子を集積した集積型紫外線APDを世界で初めて実現した。この集積型APD構造におけるAPD動作モードで,検出可能なレベルの隣接素子間の光信号クロストークは観測されず,集積型紫外線APDの実現に近付いた。

今回,ZnSe系有機-無機ハイブリッドAPDは,実用レベルの低暗電流・安定動作の可能性が十分にあることが見出された。また,インクジェット法によるPEDOT:PSS窓層の形成により,同一ウエハ上(基板上)に独立したAPDを集積することが可能となり,従来の光電子増倍管やAPDでは成し得なかったAPDの集積化が実現可能になる。

研究グループはこのAPD集積化技術により,高感度・高速ラインスキャンが可能な1次元APDアレイ,微弱光撮像デバイス等の実現が期待されるという。この紫外線光波帯高感度集積型APDが実用化されれば,医療分野のみならず,天文分野,科学計測分野,次世代紫外線光ディスク,火炎センサ,ミサイル追尾など多様な分野にわたり貢献できるとしている。

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