大阪大学インターナショナルカレッジの留学生および日本人研究者のグループは,光に応答して伸び縮みするナノワイヤを一様に形成する技術の開発に成功した(ニュースリリース)。今後,自分自身で自由に形を変えるπ共役高分子で形成された電線(“光るひも”や“動くひも”)などへの応用が期待される。
このナノワイヤは,粒子線(イオンビーム)を用いて作製した。一つ一つの粒子の飛跡に沿った直径数ナノメートルの円柱状の空間内で,高分子反応(架橋反応)が引き起こされることで,さまざまな機能を有する高分子ナノワイヤを作製することができる。
高分子(プラスチック)の膜に粒子をあてて,溶媒で洗浄するだけという非常に簡便なプロセスで,長さ・太さ・数が完全にそろった数㎚の太さのひもを作成することができるため,様々な材料をナノ構造化することが可能。
今回作成したナノワイヤは,分子形状が光照射によって可逆的に大きく変化するアゾベンゼンを組み込んだ共重合体がもとになっている。この高分子は,アゾベンゼン以外に,発光ポリマーとしての極めて高い性能を有するポリフルオレン,ナノ構造形成のための反応性と高分子の製膜性を同時に向上できる長鎖アルキル基,の3点を自由に組み合わせて設計した。
このように,もとになる物質の“機能”を組み合わせ,1次元ナノワイヤを実現できる。シリコン基盤上に製膜したこのπ共役高分子(PFOAzo)に高エネルギー粒子を照射し,PFOAzoナノワイヤの一様形成に成功した。基板上を埋め尽くしたひもが,それぞれ一つの粒子が通った道筋を示している。
得られたPFOAzoナノワイヤを光で動かしてみたところ,紫外線を照射するとナノワイヤがミミズのような湾曲を伴い収縮(断面半径rは8.1㎚から6.3㎚に減少)し,可視光を照射すると元に戻る光応答性を示した。これは,トランス型のアゾベンゼンがシス型に,ついでシス型が元のトランス型に光異性化したことを反映している。また,PFOAzoナノワイヤからはπ共役フルオレン骨格が示す発光および電気伝導性がそれぞれ観察されている。
この研究成果では,可視光に含まれる一般的な光により,その形状が大きく変化するナノワイヤーの形成が示された。偏光光源などの特殊な光を用いることなく,光エネルギーを吸収してナノワイヤーの軸に沿った運動に変換できる可能性を示しているという。
実際に基板表面に固定されたナノワイヤを「触らずに」光により操作することで可逆的な運動ができる光応答性アクチュエーターどのメカニカルデバイス作製や超微細電線としてオプトエレクトロニクスへの応用が期待される。また,蛍光センサやナノワイヤ表面の化学修飾によりDNA検出などの生物学領域への利用が考えられると同時に,その莫大な表面積により超高感度化の可能性を示しているとしている。
研究グループは今後,アゾベンゼンの高速光異性化のための分子設計と,その構造変化による蛍光量子収率の向上と吸収・蛍光波長の調節を図り,光メカニカルデバイスへと展開していく予定。また,光・熱・pHなど異なる刺激に応答する高分子を一様な長さ・太さでつなぎ合わせたブロックワイヤの作製が考えられ,さまざまな刺激に応答する高機能性ナノワイヤーを作製していく。
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