基礎生物学研究所と愛媛大学大の研究グループは,光源としてこれまでとは特性の違う,工業用の高パルスエネルギー赤外線レーザを用いることで,2光子・光シート顕微鏡の視野を大幅に広げることに成功,これがメダカの稚魚全体のような,大きな生きた標本のイメージングに使えることを実証した(ニュースリリース)。
レーザ顕微鏡は生物学や医学の分野で広く使われている。特に発生のメカニズム解明などの研究のためには生体深部の細胞や分子の動きを観察する必要がある。光シート顕微鏡は,レーザビームを平面状に成型して側面から試料に照射することで,強い光を繰り返し照射することによる生体へのダメージを抑え,さらに高速で画像を取得することができるので,生きた胚の観察などに応用されている。
しかし,レーザ照射による試料への影響は,敏感な試料にとってはなお問題であり,加えて生体深部での観察となると試料による光の吸収や散乱が取得画質を悪化させる。そこで近年ではこの光シート顕微鏡に極めて短時間かつ強力な赤外線パルスレーザを照射し,2光子励起蛍光観察を組み合わせ,上記の問題点を克服しようとする試みがなされてきた。
しかし従来の2光子顕微鏡に用いられていたレーザを用いた2光子・光シート顕微鏡では,光エネルギー密度が不足するために観察できる視野は狭くなってしまい,最大でも0.25 mm以下だった。
今回,材料加工用に開発されたレーザ(IMRA America社製)を顕微鏡光源として用いる試みを行なった。このレーザは従来の超短パルス赤外線レーザに比べ,パルスの繰り返し周波数が低く,その代わり1パルスあたりのエネルギー密度が高いという特徴を持つ。
これにより,1 mm程度の広い視野での観察が可能になった。一方で金属加工にも使われるような高いエネルギーのレーザ照射は生体へのダメージが懸念されるが,研究ではメダカを生かしたままイメージングできることを実証し,心臓が拍動するようすを高速(0.05 sec/frame)で観察することにも成功した。
メダカはがん移植モデルや薬物スクリーニングなど医学研究のモデル生物としても近年注目されており,研究グループではこのような小型モデル動物の生体深部高速ライブイメージングの系の開発は,発生学に加え医学研究への貢献も期待されるとしている。