東京大学らの研究グループは,小脳において,シナプス結合の絶対的な強さが半分程度に弱くなったが,強いシナプス結合と弱いシナプス結合の相対的な強さの差は正常と変わらない遺伝子改変マウスを作製し,「シナプス刈り込み」と呼ばれる現象を調べた(ニュースリリース)。
記憶・学習・情動・運動などの高次機能が正常に働くためには生後発達期の神経回路形成が重要であると言われている。生後間もなく神経細胞同士の結合部位であるシナプスが過剰に形成され,その後必要なものだけが選別される“シナプス刈り込み”と呼ばれる現象が起こることが知られている。
シナプス刈り込みは神経系のさまざまな領域で起こる現象であり,神経回路形成の根幹をなしていると考えられている。また,シナプス刈り込みの異常は統合失調症や自閉スペクトラム症といった精神疾患の引き金になるとも考えられており,そのメカニズムの解明は臨床的にも重要である。
刈り込まれるシナプスの選別に重要なのはシナプス結合の強さで,より強いシナプス結合を持つシナプスは生き残り,弱いシナプス結合を持つシナプスが刈り込まれるとされています。しかし,強いシナプス結合と弱いシナプス結合の「相対的な」差が重要なのか,それとも,生き残るシナプスにはある程度のシナプス結合の「絶対的な」強さが重要なのか,これまで明らかではなかった。
今回の実験の結果,作製したマウスではシナプス刈り込みが生後11日目までは正常に起こるが,その後刈り込みが進まなくなることを明らかにした。つまり,生後12日までの刈り込みには強いシナプス結合と弱いシナプス結合の相対的な差が,生後12日以降の刈り込みには強いシナプス結合と弱いシナプス結合の相対的な差だけでなく,シナプス結合の絶対的な強さが重要であることを明らかにした。
また,シナプス結合の強さの全般的な減弱は,細胞内でカルシウムシグナル及び最初期遺伝子Arcの発現に影響を与え,シナプス刈り込み障害していることが分かった。
シナプス刈り込みは神経系のあらゆる領域の回路発達に重要な現象であり,研究グループはこの研究の成果について,小脳だけでなく大脳皮質・海馬・線条体などにも展開でき,精神疾患の原因究明において新たな方向性を示すものとしいてる。
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