東北大学,京都大学らの研究グループは,シリコンのオープンセル型ポーラス粉末を開発することに成功した(ニュースリリース)。さらに,これを活物質に用いたリチウムイオン電池が,現行のリチウムイオン蓄電池よりも大きな比容量を有し,かつ,サイクル寿命にも優れることを明らかにした。
リチウムイオン電池の負極活物質として現在,炭素系材料が使用されているが,その容量(~370 mAh/g)は理論限界値に到達している。これ以上の高エネルギー密度化を目指すには,炭素系材料の10 倍以上の理論容量(約4000 mAh/g)をもつシリコンが有力候補として注目されている。
しかし,シリコンはリチウムの挿入に伴って最大約3~4倍にまで体積膨張が膨張して自壊することや,電極から剥離してしまうことが原因となって,サイクル特性が著しく低い。一方,リチウムの挿入に伴うシリコンの破壊挙動にはサイズ依存性があり,直径300nm以下のワイヤや150nm以下の微粒子であれば自壊しないことが示されている。
そこで研究グループは,オープンセル型ポーラス構造が理想的形状の一つであると考え,東北大がが開発した金属溶湯を用いた新しい脱成分技術により,従来法では困難であった数々の卑金属のオープンセル型ナノポーラス体の作製に成功した。
この方法は、数百~1000℃近傍の高温金属液体内で生じる高速脱成分反応を利用するため,前駆合金塊から大量のオープンセル型ナノポーラス体が得られるトップダウン的製造法であり,量産性が高いことにも大きな特徴がある。
開発したポーラスシリコン粉末を活物質に用いたリチウム電池の性能を評価したところ,従来の炭素系活物質を用いた場合よりも約10倍大きい3600 mAh/g まで充放電が可能であり,150 回の充放電サイクル後も2000 mAh/g(従来の炭素系の5.4倍の容量)超を維持することを明らかにした。
一方,定容量充放電試験では,ポーラスシリコン粉末を用いた場合は220サイクルまで性能を維持したが,市販のナノシリコン粒子を用いた場合は充電ができなかった。容量を1000 mAh/g(従来の炭素系の2.7倍の容量)と設定した試験では,ナノシリコン粒子を用いた場合の約50サイクルに対し,ポーラスシリコン粉末を用いた場合は,途中から充電速度を速めたにも拘わらず,1500サイクル超まで性能を維持した。
この発明は,携帯電話・スマートフォンやノート型PC等のモバイル機器の使用時間や,電気自動車の走行距離の拡大に繋がるものと期待される。
関連記事「東大,現行リチウムイオン電池の7倍のエネルギー密度を可能にする二次電池を開発」「NIMS,全固体リチウム二次電池の正極-固体電解質界面の高精度電子・原子シミュレーションに成功」「東北大,成形性・接触性に優れた全固体電池向けリチウムイオン伝導体を開発」「東大、新方式二次電池「デュアルイオン電池」を開発」「東大など,リチウムイオン電池の急速充電/高電圧作動を可能にする電解液を開発」「日産アークら,リチウムイオンバッテリーの電子の動きを直接観測し定量化する技術を開発」