名古屋大学の研究グループは,リアルタイムにその場でPM2.5等の微粒子中に含まれる重金属成分を測定する装置を開発し,大陸から飛来するPM2.5の観測を行なった(プレスリリース)。これまで日本では空気の体積あたりの粒子の重さだけがPM2.5の環境基準となっており,有害な成分が多いのか,単なる砂塵なのかの区別はされていなかった。
一般的なエアロゾル成分分析では,大気をフィルタに通して吸引することによりPM2.5を収集した後,そのフィルタから成分を抽出・分析を行なっている。しかし,この方法は比較的長い時間吸引を必要とし,分析も実験室で行なうため,短時間の大気中の化学的な変化を追いかけるのは難しかった。
研究グループは,取り込んだエアロゾルにエキシマレーザパルス光を照射し,気化した成分をイオン化して質量スペクトルを計測する装置を考案した。この装置により,一つ一つのエアロゾル粒子の化学組成に関する情報をリアルタイムで得ることができる。また,同時に粒子の大きさに関する情報も得ることができるので,成分の粒子サイズ依存性も知ることもできる。
PM2.5は発生原因によって粒子を構成する化学組成が異なるため,化学組成に関する情報は発生源の推測に役立つ。また,特定の成分を含んだ粒子を選別することができるので,人体への影響の大きな金属成分を含んだものが,どれほど存在するかを明らかにすることができる。
そこで研究グループはこの装置を用い,日本の風上域に位置し,PM2.5の人為的な発生が少ない長崎県の離島で,アジア大陸から長距離輸送されたPM2.5中の金属成分に注目して観測を行なった。
その結果,1日の中でも観測粒子の数は短時間のうちに大きく変動することが分かった。また,観測した鉛を含む粒子の多くは,石炭燃焼により発生することが推測できた。その他,産業廃棄物燃焼,重油燃焼や土壌粒子などに分類することができ,人為起源による発生が大部分を占めることが分かった。
この装置により,金属成分の増減をリアルタイムに報告することが可能になり,今後より健康への影響を反映したPM2.5情報を提供することが期待できる。また,発生原因の解明は,PM2.5の排出規制対策においても重要な指針となる。