東工大,鉄系超伝導体の絶縁体親物質を電界により金属状態へ転移することに成功

東京工業大学元素戦略研究センター教授の細野秀雄氏らの研究グループは,鉄系超伝導体物質群の中では唯一のモット絶縁体である,層状セレン化合物TlFe1.6Se2に着目し,電気二重層トランジスタ構造を利用して,外部電界の印加によって,超伝導現象の予兆とも言える金属に近い状態まで相転移させることに成功した。

1

TlFe1.6Se2は,基本構造はTl:Fe:Se の組成比が1:2:2 の122 型と呼ばれる層状構造が基本だが,形式的な電荷(Tl:1+, Fe:2+, Se: 2–)を考えた場合,この122 型基本構造では電気的中性を満足しない。そこでFe の位置に空孔(鉄が存在しない場所)を生成し,基本構造に対して√5×√5×1 倍のTl2Fe4Se5(245 型)という化合物になる。

そしてその空孔が規則配列する場合とランダム相が混在する場合があることがバルクの単結晶で報告されている。この空孔が規則配列したものが,電子構造としてはエネルギーギャップを持つ,モット絶縁体としての振る舞いを示す。この研究でパルスレーザ堆積法により作製したTlFe1.6Se2薄膜は,上記の空孔サイトが規則配列した構造を有していた。

外部からの電界印加方法としては,電気二重層トランジスタ構造を用いた。6 端子状に形成した厚さ20㎚の極薄のTlFe1.6Se2 薄膜上に,ゲート絶縁体として働くイオン液体を流し込み,コイル状の白金で作製したゲート電極から外部電界(ゲート電圧)を印加し,TlFe1.6Se2 薄膜の表面に最大で2.5×1014 cm–2(1 平方cm 当たり)の伝導電子を誘起することに成功し
た。

その結果,ゲート電圧を印加しない場合(0ボルト)は絶縁体に特徴的な,温度が下がると電気抵抗が上昇する様子が観察されたのに対し,2ボルト以上のゲート電圧を印加した場合には,特に低温域での電気抵抗の大幅な低下と共に,50K近傍に電気抵抗の「こぶ」が観察され,最大の4ボルト印加時には抵抗の温度依存性がほぼ消滅し,まるで金属のような電気抵抗の温度依存性を示した。

この結果は,超伝導転移直前の予兆とも言えるモット絶縁体から金属へ,もしくはこの物質に特有の磁気的な「相転移」が外部電界で制御できていることを示している。この結果は,鉄系層状母物質で初めて観察された外部電界誘起相転移であり,より高い超伝導転移温度の鉄系超伝導体の探索の新しいルートを提供するもの。

詳しくはこちら。