京都大学と産業技術総合研究所は,新たな独自アルゴリズムを用い,リンドープn型ダイヤモンド中のNV中心量子センサーにおいて,測定可能な磁場の範囲を決めるダイナミックレンジを,これまでのものより2桁以上広げることに成功した(ニュースリリース)。
NV中心は,室温で1個(単一)のNV中心が有するスピンを観測でき,さらに他材料に比べ,室温でも際立って長いスピンコヒーレンス時間 (T2)を有することから,高感度な量子センサーとしての応用が期待されているが,従来の量子センサーでは,高感度化とダイナミックレンジを広げることを両立することに難点があった。
今回,パルス間隔の異なるパルス系列を組み合わせ,それをベイズ推定によるアルゴリズムにより最適化することにより,高い感度を維持しつつ,室温における単一NV中心において7桁程度のダイナミックレンジを実現した。これは単一NV中心の低温(8K)における最高報告値より2桁も広い値だという。
また,パルス間隔の異なるパルス系列を組み合わせた研究では,測定時間に対する感度の依存性が古典での限界を超えるようにも見られる結果も報告され,学術的に関心が持たれていたが,今回研究グループは,この現象についてもシミュレーションにより現象の解明を行ない,感度の依存性について示した。
今回の単一NV中心を用いた結果を踏まえると,NV中心の数を増やした集団の計測では高感度化により更なる広いダイナミックレンジを実現できるとする。
他の超伝導量子干渉計や光ポンピング磁力計などの超高感度センサーの中には,ダイナミックレンジが非常に狭いセンサーもある。今回考案した手法はパルス手法を用いた他の量子センサーにも適用できるので,量子センサーの計測範囲を,感度を維持しつつ広げた今回の成果は,量子センサーの応用環境を広げる成果として期待されるという。
また,測定対象物との間の相互作用の大きさは距離に大きく依存するため,今回の成果は測定空間の領域を広げることにもつながると期待されるとしている。