横浜国立大学,東京工業大学,芝浦工業大学,ブラジル エスピリトサント連邦大学,ポルトガル アヴェイロ大学らの研究グループは,プラスチック光ファイバーヒューズという新たな物理現象に基づき,光ファイバーを用いて磁界を計測することに成功した(ニュースリリース)。
光ファイバーセンサーには,長距離,軽量,柔軟性,電気絶縁性,防爆性,耐雷性などの多くの利点があるほか,電磁ノイズに強いという性質がある。この性質は,強電磁界環境において変形や温度を測定する際には大きなメリットとなる一方,磁界自体の計測は困難であることを意味する。
これまで光ファイバー型の磁界センサーとして,内部を磁性流体で充填した光ファイバーや高濃度にテルビウムを添加した光ファイバーなどが提案されてきた。しかし,これらの特殊光ファイバーは高コストであり,センサーのシステム構成自体も複雑だった。
2014年,研究グループは,プラスチック光ファイバー中でのヒューズ現象を初めて観測した。その際,ヒューズが起きた後のプラスチック光ファイバーに,螺旋状の炭素跡が残されることは解明していた。今回,ヒューズ後のプラスチック光ファイバーが磁界に反応することを初めて発見し,モード間干渉センサーに組み込むことで,低コストかつ超高感度な磁界計測に成功した。
具体的には,ヒューズ現象を生じた後のプラスチック光ファイバーを,2本のシリカガラス光ファイバーで挟み込み,一方の端面から広帯域光源の出力光を入射し,もう一方の端面からの出射光のスペクトルを観測した。プラスチック光ファイバーを横切る方向に磁界を印加し,スペクトルの変化を調査した。
5cmの光ファイバーを用いた場合に,センサーの出力スペクトルのピーク波長が113.5pm/mTという極めて高い感度でシフトすることを実証した。このセンサーは,日本国内の地磁気の大きさに相当する45µTという微小な磁界の変化を検出することが可能。これは,テルビウム添加光ファイバーを用いた従来法(20mT)よりも,数百倍小さい値だという。
多くの磁界センサーでは,信号伝送のために金属製の伝送線路が用いられる。しかし,強電磁界環境では特に,金属部品が電磁界自体を乱してしまうという問題があった。一方,光ファイバーを用いた電磁界センサーには,この問題は本質的にない。よって,この研究成果は,強電磁界環境,特に防爆性や耐雷性が要求される現場での電磁環境調査への応用が期待されるとしている。