理化学研究所(理研),東京大学,独ルール大学ボーフム校の研究グループは,半導体量子コンピューターへの応用が期待される電子スピン量子ビットへの固体素子中の雑音を能動的に抑制することで,量子ビットの制御エラーを劇的に低減することに成功した(ニュースリリース)。
汎用量子コンピューターの実現には,量子ビットを高精度に制御することが必要不可欠となる。しかし,固体素子中において普遍的に存在する電気的・磁気的な雑音に起因する制御エラーを完全に取り除くことは,非常に難しいと考えられている。
研究グループは,雑音の量子ビットへの影響を抑制するために,雑音を高感度に検出してフィードバック制御を行なう手法を開発した。量子ビットに影響する雑音は極めて微弱なため,一般的なセンサーでは検出できない。
そこで,量子ビットそのものを磁場や電場に対する高感度な量子センサーとして用いることにより,雑音を高速で検出できるようにした。そして検出した情報をもとに,量子ビットの制御に用いるマイクロ波信号の周波数にフィードバックすることで,雑音の影響を補償した量子ビット制御を試みた。
その結果,周波数ずれの変動を大幅に抑制できたとともに,量子ビットの品質が大きく向上し,より長時間情報を保持できるようになった。また、量子ビットを上下反転させる制御についても、同様に改善し,汎用量子コンピューターの実現に必要な量子誤り訂正を実行するのに十分な精度を達成した。これはGaAs/AlGaAs基板における単一電子スピン量子ビットの制御精度としては過去最高の値で,作製が難しいSi基板の量子ビットの性能に迫るもの。
一方で,量子ビットの上下反転制御のエラーの起源は,低周波の雑音ではなく,10MHz程度の高周波雑音が支配的であることが明らかになった。このような周波数の雑音は,電荷揺らぎに起因する1/fスペクトル(fは周波数)と、核スピンの磁気回転に由来する共鳴的なスペクトルの2つからなることを突き止めた。この結果により,材料によらない普遍的な特性であることが示された。
この結果は,半導体量子コンピューターの実現のためには新規材料の開発に頼らざるを得ないと考えられてきた従来の開発指針に転換を迫るもの。また,量子ビットのエラーを引き起こす雑音のメカニズムが明らかになったことで,新たな雑音抑制手法の開拓につながるとしている。