北海道大学と韓国・釜山大学校の研究グループは,電流と磁性で情報記憶する素子用の材料における電気化学酸化反応の可視化に成功した(ニュースリリース)。
材料科学分野において,一般に巨視的スケールの可視化には,透過型電子顕微鏡観察が用いられる。しかし,コバルト酸ストロンチウムは電子線照射に対する耐性が低く,観察中に容易に酸素量xが変化してしまうため,真空や電子線を用いる透過型電子顕微鏡観察を適用できないという問題があった。
この問題に対し,研究では,熱電特性と導電性原子間力顕微鏡観察を組み合わせた新しい可視化手法を開発した。まず,1cm×1cmの面積のSrCoO2.5薄膜を電気化学的に酸化し,酸化度合が異なる6種類の薄膜試料を作製した。次に,これらの薄膜試料の熱電特性(電気抵抗率・熱電能)を計測した。
研究グループは,得られた熱電特性を解析することにより,酸化反応が層状に起こるのか,それとも柱状に起こるのかを明らかにできると考えた。最後に,熱電特性の計測・解析から得られた知見をサイズを含めて分析するために,観察を行なった。
SrCoO2.5層とSrCoO3層が層状に重なった「層状成長モデル」を仮定した場合,実測値を再現することはできないが,「柱状成長モデル」を仮定すると実験データをほぼ完全に再現することができた。つまり,SrCoO2.5薄膜の電気化学酸化反応は柱状に起こることがわかった。
次に,大きさに関する情報を直接取得するために,導電性原子間力顕微鏡観察を行なった。走査範囲は2μm×2μmである。形状像には大きな変化は見られないが,電流像には直径100nmほどの大きさの電気が流れる領域が酸化度合の増加につれて増えていく様子が見られる。この研究により,コバルト酸ストロンチウム薄膜の電気化学酸化反応を巨視的なスケールで可視化することに成功した。
電気化学酸化・還元反応を利用した素子(電池も含む)において,反応の様子を可視化することは非常に重要な研究課題となる。この研究で提案した熱電特性(電気抵抗率・熱電能)の計測と導電性原子間力顕微鏡観察を組み合わせた可視化の新手法は,コバルト酸ストロンチウム薄膜を用いた次世代情報記憶素子の開発を加速させるだけでなく,透過型電子顕微鏡観察を適用できない材料の電気化学酸化・還元反応の可視化に大きく貢献するものだとしている。