理研ら,量子化されたエネルギー吸収率を観測

理化学研究所(理研),独ハンブルグ大学,ベルギー ブリュッセル自由大学らの国際共同研究グループは,トポロジカル物質における量子化されたエネルギー吸収率の観測に成功した(ニュースリリース)。

二次元電子系で発見された整数量子ホール効果を発端に,トポロジカル物質の研究は近年大きな広がりを見せている。ここ10年ほどは,電子系以外のさまざまな物質,特に原子分子光物理学で作られる系におけるトポロジカルな性質の研究が活発に行なわれている。

原子分子光物理学の系では,試料の作製方法や測定量・観測手法が電子系とは異なるため,従来とは異なる視点から物質のトポロジカルな性質を研究することができる。今回,研究チームは冷却原子系において,新たなトポロジカルな現象の観測を試みた。

物質を周期的に揺らすと,物質はエネルギーを吸収して熱くなる。2017年以降の理論的研究により,物質を時計回りに揺らした場合と反時計回りに揺らした場合では,エネルギー吸収に差があり,その吸収率の差が物質のトポロジカル不変量と関係していることが知られていた。

そして2018年に,物質を一方向に揺らした場合のエネルギー吸収率が,物質のより詳細な幾何学的構造である量子計量テンソルと呼ばれる量と関係していることが理論的に突き止められた。

研究グループは,極低温に冷却したカリウム原子の集団を用いて,これらの現象を観測することに成功した。今回,ハンブルグ大学で行なわれた実験では,レーザーを用いて原子集団を真空中に冷却・捕捉し,レーザーによって作られた格子の中に閉じ込めた状態で観測を行なった。

格子を時計回りに揺らした場合と反時計回りに揺らした場合の原子のエネルギー吸収を,さまざまな振動数で繰り返し測定することで,実際に吸収率の差がトポロジカル不変量である整数(チャーン数)に,誤差の範囲内で一致することを示した。

また,一方向に揺らした場合は,吸収率の和がトポロジカル転移の前後で増大することを観測した。これは,量子計量テンソルがトポロジカル転移の前後で発散することと整合している。量子計量テンソルが何らかの形で実験的に観測されるのは,この実験が初めてだという。

今回の実験により,物質を揺らした際のエネルギー吸収率の測定がトポロジカル物質の特徴づけに有用な手法であることが明らかになった。今後,この研究手法を発展させることで,さまざまな物質において今までには直接観測することが難しかった物質の性質を観測できるようになるとしている。

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