大阪大学の研究グループは,NTT,情報通信研究機構(NICT),東京大学らと共に,量子メモリとなる冷却原子と光ファイバーネットワークにアクセス可能な通信波長帯光子の量子ネットワークの実証に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
量子ネットワークは量子コンピューターによるハッキングにも耐性のある量子暗号などのセキュリティ通信を実現する。その長距離化のためには,効率的に量子状態を送受信するための中継器が必要とされている。
現在のネットワークにおけるサーバーのような役割をもつこの量子中継器は,量子状態を壊すことなく保存することができる量子メモリによって構成される。
しかし,これまでは光ファイバー通信で利用される波長の光量子状態を長時間保存する量子メモリがなく,量子ネットワークの長距離化を阻む一つの原因になっていた。これを解決するため,効率的に波長を変換する必要があった。
研究グループは,これまで開発してきた単一光子の波長変換器を光干渉計と一体化させる新しいアイデアにより,光子の偏光状態を変えずに通信波長帯へ波長を変換する「偏光無依存型波長変換器」を実現し,これにより世界で初めて冷却原子量子メモリと通信波長光子の量子ネットワークを実現した。
この実現のために,NTTの冷却Rb原子トラップ技術を応用した冷却原子量子メモリを大阪大学で構築し,開発した偏光無依存型波長変換器を組み込むことにより,発生した短波長光子(780nm)を通信波長帯(1550nm帯)に変換した。
この時,冷却原子量子メモリと光通信波長帯の光子の量子状態が「エンタングルメント」と呼ばれる量子力学特有の性質を持つことが量子ネットワークの重要な証拠となる。通信波長帯光子を限りなく低雑音で計測できるNICTの超伝導光子検出器(SSPD)を利用し,東京大学と協力し観測データの解析を行ない,このエンタングルメントをもつことを確認することができた。
この新しい量子ネットワークを光ファイバーで繋げることで,遠く離れた原子メモリ間の量子ネットワークの形成や,それを利用した長距離セキュリティ通信に役立つことが期待されるとしている。