パイオニアは東京モーターショー2015において,同社の自動車産業向け光製品について,試作品を含めた展示を行なっている。
HUD向け超小型レーザー光源
同社は他に先駆けて車載ヘッドマウントディスプレイ(HUD)を製品化している。今回参考出品として,この製品に搭載されるレーザー光源モジュールを展示している。これは容量はわずか0.9ccと超小型ながらRGBのレーザー光源と各出力をモニターするフォトダイオードを搭載するもの。
同社ではこのレーザーとMEMSミラーを組み合わせ,プロジェクターモジュールとしてOEM供給も行なっている。レーザーならではの高コントラスト表示と,MEMSミラーによる走査でワイドなシースルー表示が特長で,LED光源と比較して特に緑色の色域が広く,優れた視認性を得ることができるとしている。
なお,各色の波長と出力は次の通り。R:波長632〜643nm/出力93mW,G:波長510〜525nm/出力59mW,B:波長440〜460nm/出力73mW,動作温度:−40〜85℃。
同社ではこのプロジェクターモジュールを,車載以外にもスマートグラスなどの小型ディスプレイ向けに展開したい考えだ。また,光源のみでの提供も可能だとしている。
低価格LiDARシステム
現在,先進運転支援システム(ADAS)に用いられているセンサーの中心はミリ波レーダーやカメラだが,将来,自動運転が実用化される際には,地図情報を用いた自己位置推定システムが必要となる。その時,赤外線レーザーを用いたLiDARシステムは解像度が高く,対象との距離情報も得ることができることから,車載センサーの中核になるとも言われている。
しかし,現在市販されているLiDARシステムは非常に高価なため,車載に適した高信頼性/低価格のLiDARシステムの登場が期待されている。パイオニアではDVD事業などで培ってきたレーザーやMEMSスキャナー,OEIC(光信号と電気信号を両方扱うIC)などの技術を用いて,車載向けLiDARシステムの開発を進めている。
今回,開発するLiDARシステムの概要を展示した。出力数10W/波長905nmの赤外パルスレーザー(パルス幅数nm)を用い,100m以上先までを水平210度,上方+15度,下方−5度の範囲をMEMSミラーを用いて走査して距離などの情報を得る。
このシステムを4つ車体に取り付けることで,周囲360度の情報を得ることができる。2016年には地図製作用の車両に搭載して運用を始めたい考えだ。今回は実用化を想定し,ボール状のデザインのモックアップを展示している。
現在,LiDARの問題点として雨や雪の日の外乱や,レーザー走査のための駆動機構が必要なことが挙げられているが,同社は外乱についてはデジタル波形信号処理による解決を目指すと共に,駆動機構についてはMEMSを採用することによって信頼性を得たいとしている。
同社は先日,ドイツの地図システム企業と協業することを発表しており,今後,地図データとLiDARシステムを高度に連携させると共に,カーナビゲーションシステムとも同期させることで,自動運転技術を加速する。
有機ELハイマウントストップランプ
パイオニアは三菱化学と共に照明用有機ELパネルを生産しているが,今回この応用としてハイマウントストップランプ(HMSL)を試作した。HMSLとは,リアウィンドウの上部など,後続車の運転手の目線上に配置するストップランプのこと。
このHMSLは有機ELの面発光という特徴を活かして,シースルーを実現している。具体的には発光面をスリット状にすることで,車内からは点灯中でもHMSL越しに車外を見ることができる一方,後続車からは通常のランプ点灯のように見え,リアビューデザインの自由度を上げることができる。
試作モジュールは,幅179mmのパネルを幅90mmのパネル2枚で挟んだ3枚構成(高さ31mm)となっており,ここに幅0.2mmの短冊状の発光部が0.7mm間隔で並ぶことでスリットを形成している。この構造による透過率は50%,開口率は72%で明るさは2,000cd,波長は法定の赤色となる620nmとなっている。
同社では今後製品化に向け,有機EL照明共通の課題である低価格化をはじめとして,真夏の車中でも耐えることのできる高温での動作などを詰め,最終的には局面のリアウィンドウにも貼ることで使用できるような製品を目指したいとしている。