「スマートフォンに搭載可能な極小プロジェクタの開発を目指す」—千葉大学大学院工学研究科・准教授の下馬場朋禄氏,教授の伊藤智義氏,それにポーランド・ワルシャワ工科大学のMichal Makowski氏の研究グループが,現在その実現に向け研究・開発に取り組んでいる。
開発しているのは,ホログラフィ技術を応用したプロジェクション・システムで,このシステムではレンズを使わなくても焦点距離を自在に変えることができるというのが,大きな特長となっている。
一般的なプロジェクタは結像レンズによって焦点距離を変える機構になっているが,開発中のプロジェクタでは計算によってコンピュータ上で行なう仕組みとなっている。これにより,レンズが不要になるとしている。こうして部品点数を減らしていくことで,将来的にはチップタイプの極めて微小なプロジェクタが実現できると期待されている。
しかし,ホログラフィによる焦点距離の調整には膨大な計算時間を要する。下馬場氏によると,「単純に映像を大きくすると画素数が増えるので,その数に比例して計算時間が増えることになる」という。そこで今回,画素数を変えることなく物理的に(画素の)間隔を広げる手法を採用し,この計算時間を短縮した。
試作したシステムは波長639nmの半導体レーザとホログラム素子,反射型LCOSパネルという構成。現状は単色のみで,2mの距離で最大10cm角の映像を投影する。ホログラムは表示デバイスの画素ピッチが狭くなるほど,回折現象の利用によって大画面映像を表示することができる特性があることから,これに対応する表示デバイスの開発が期待されている。
フルカラー化に関しては今後の研究課題の一つとし,RGBレーザをMEMSデバイスで高速にスイッチングする手法を試みるとしている。また,画質改善も課題となっている。レーザ光源を使用するため,スペックルノイズの発生が問題となるからだ。現在レーザ光源に機械的に振動を与えることでノイズを除去しているが,電流変調型のレーザを利用する開発も計画している。
下馬場氏は,2次元表示であれば,レンズを全く使わなくても原理的にレーザ光源とホログラム表示素子のみの構成で,ズームも可能な超小型のプロジェクション・システムが実現できるとしているが,今後はそれを実証するため,光学的に縮小させていきながら投影サイズや画質などの評価を行なうとしている。◇