エルビウム光ファイバ増幅器の実用化は光通信ネットワークの進展に計り知れない影響を与え,もしこれが出現しなかったならば,現在のインターネット社会は存在し得なかったのではないだろうか。
このエルビウム光ファイバ増幅器の実現と,それを用いた光通信の高度化に関する貢献によって,東北大学電気通信研究所の中沢正隆教授が平成25年度の日本学士院賞を受賞した。これに伴い去る7月8日(月),仙台市のウェスティンホテル仙台において,その受賞記念講演会と祝賀会が盛大に開催された。
続く(独)科学技術振興機構の中村道治理事長は「科学技術振興機構(JST)と日本の科学技術」と題し,日本発の科学技術イノベーションの創成を目指したJSTの取り組みを紹介した。
続いて登壇したのは,日本電信電話(株)の篠原弘道常務取締役・研究企画部門長。「情報通信の将来展望」と題した講演では,情報通信分野における最新動向と課題を述べるとともに,課題解決に向けた技術展望とNTTにおける具体的な取り組みを紹介。東北大学の里見進総長は「『ワールドクラスへの飛躍』と『東北の復興・日本新生の先導』を目指して」と題し,同大学における,この二つの大きな目標に対しての取り組みと将来像を示した。
そして,この日のメインの講演が中沢教授による「エクサビットへの挑戦」だ。無線を凌駕する高い周波数利用効率を実現する超多値コヒーレント伝送技術(Multi-level modulation),パワー限界を打破するための空間多重技術であるマルチコアファイバ伝送路技術(Multi-core fiber),MIMO等の信号処理を駆使したモード多重による容量拡大を実現するマルチモード制御技術(Multi-mode control)の三つのMulti(3M)技術によって,現在の光通信インフラ技術の1000倍という飛躍的高度化を実現するための最新の研究開発事例が紹介された(弊誌6月号特集でも詳細が解説されている)。
この後,会場を移して開かれた祝賀会では,前述の方々に加え,東北大学の岩崎俊一理事長や東京工業大学の前学長である伊賀健一名誉教授が祝辞を述べるとともに,東北大学元総長の西澤潤一名誉教授も出席して乾杯の音頭を取るなど,これまで日本の光エレクトロニクスの研究・開発を牽引してきた方々と,現在第一線で活躍する研究者や関係者の方々が一堂に介して,中沢教授の受賞を祝福した。
(川尻多加志)