琉球大、ハイブリッド大気圧低温プラズマ発生装置を開発

琉球大学 工学部電子工学科教授の米須章氏は,マイクロ波放電と低周波放電を組み合わせた,新しいプラズマ生成法を考案した。この方法は大気圧下においてガス温度の低いプラズマを生成できるのが特長で,滅菌への応用が期待できるという。

従来の滅菌法には主に高圧蒸気滅菌法と酸化エチレンガス滅菌法があるが,前者は短時間での処理が可能だが,滅菌対象に耐熱性と耐湿性が求められる。また後者は低温での処理が可能だが,ガスが有毒で処理時間も長いという弱点がある。このため,これらの技術に替わる滅菌法が求められている。

こうしたニーズに対し,プラズマを用いたプラズマ滅菌法が期待されている。プラズマ滅菌法はプラズマ中に発生する酸素ラジカルや紫外線,荷電子が,菌類だけでなく,ウィルスや芽胞も滅する。さらに,発生する酸素ラジカルは残留性がないため安全性が高く,ガス温度が低く低温での処理が可能,ドライプロセスといった長所がある。

だが,一般にプラズマは「熱プラズマ」と「低温プラズマ」に分類されるように,「熱プラズマ」は通常大気圧下で生成できるものの,文字通り温度が高い。一方「低温プラズマ」は温度は低いが,生成には低ガス圧力下である必要があるため,真空容器などが必要となり汎用性が低くなる。

今回,米須氏は「ハイブリッドプラズマ」という,「LFプラズマジェット」と「マイクロ波プラズマ」を組み合わせた,新たな装置を開発した。「LFプラズマジェット」は数kHzの電圧を電極間に印加して生成するプラズマで,大気圧下でも容易に生成できる低温プラズマだが,ラジカル密度が低いという弱点があるため,プロセスで利用されることはあまりない。「マイクロ波プラズマ」は,2.45GHzのマイクロ波をガスへ照射することで生成するプラズマで,高電子温度とラジカル密度が高いのが特長。ただし,大気圧下で生成するのは困難である。

開発した装置は,マイクロ波のアンテナを応用した構造で,マイクロ波の導波管に石英管を入れてHeガスを流し,電圧を印加することでLFプラズマジェットを発生させる。そこにO2ガスを入れて種火とし,導波管に刻んだスリット上方からマイクロ波を当てる。という単純なもの。これにより,大気圧下で高ラジカル密度のプラズマを生成することに成功した。特にLFプラズマジェットと比較して生成される酸素ラジカル量が大きく増加した。

さらに,マイクロ波をパルス変調とすることでデューティー比を変化させ,プラズマのパラメータを制御できる。これにより,酸素ラジカルの生成量とガス温度を制御することが可能。また,LF電圧は酸素ラジカル量,酸素ガスの流量はガス温度のパラメータとなる。

こうして最善のパラメータ(低ガス温度,高ラジカル量)において滅菌試験を行なったところ,バイオロジカルインジゲータをターゲットとして,温度75℃,処理時間15分において滅菌に成功した。この際のD値(初期の菌数と1/10にするのに必要な時間)は140secであった。

また,ペットボトルの滅菌を想定した実験も行なった。ただし,放電ガスとして使用してきたHe(ヘリウム)の入手が難しくなっていることから,代替にAr(アルゴン)ガスを用いている。その結果,Heよりも低いガス温度61℃にて滅菌に成功,Arでも殺菌処理が可能なことが証明された。

こうした低い温度のプラズマにより,プラスチックの食品容器,粉末状の食品や耐熱性の低い医療器具への応用を想定している。そうした実用化のためには,今後,「処理時間を短縮するために酸素ラジカルの発生効率の向上や,プラズマの口径UP,Arガスを用いた場合の滅菌特製の解析が必要」(米須氏)だとはしている。