京都大学化学研究所助教の正井博和氏らの研究グループは,紫外光照射により発光するガラス薄膜の製造方法を開発した。これは同氏らが開発した,希土類を用いずに高い発光効率を実現するガラス蛍光体を薄膜化したもので,さらに広い範囲での応用を可能にするもの。
現在,白色LEDは青色の光を黄色の蛍光体に当てて疑似白色を発するものが広く利用されているが,この方式は演色性に限界がある。一方,紫外LEDの開発が進んでおり,近い将来高出力製品も実用化される可能性が高いことから,紫外線をRGBの蛍光体に当てるタイプの,演色性の高い白色LEDの登場が期待されている。
その際,現在一般にLEDに使用されている樹脂製の封止剤は耐久性に疑問が残ると共に,蛍光体として希土類を使用するので安定的な供給に懸念があること,また均一に蛍光体を分散させることが難しく,色調のバラつきが出やすいため歩留まりの問題も避けられないといった,多くの弱点を持つ。
こうした問題を見越し,研究グループでは希土類を含まないガラス蛍光体(SnO-ZnO-P2O5系)を開発してきた。ガラスは紫外線や熱に強く,蛍光体が一体となっているために色調のバラつきも無い,というように樹脂製の封止剤にあった問題の多くを克服している。さらに量子効率も~80%と非常に高い。
そこで今回,薄膜前駆体の「溶液」ではなく,薄膜前駆体の「融液」を用いて薄膜化する方法を考案した。融液は溶媒を含まないためクラックや気泡ができず環境にも負荷をかけない,粘度の制御が比較的容易なことから厚膜化が可能,といった特長を持つ。
実際に薄膜を作成したところ,膜厚10㎛の発光ガラスを作成することに成功した。このガラスは従来のバルク試料に比べて大面積試料への適応が容易で,高い透明性も併せ持つ。また低温(300~500℃)/低コストでの作製が可能だとしている。
実用化すれば,照明/光学部材,蛍光標識,ガラスコーティングといった応用が考えられるという。今後の展開として,量子効率(>60%)のさらなる向上,作成条件の最適化,材料の化学的特性の向上,励起/発光波長のチューニングなどを挙げている。