ジェスチャー認識技術はタブレットなどの消費者向け製品で広く導入されている。さらには遠い場所にいるユーザーの動作を認識する技術を取り入れることで,タッチスクリーンの機能拡張にも貢献している。この用途では,信号のノイズを減らすためにも,想定される温度下における光源の波長安定性が不可欠である。
そういった理由から,ジェスチャー認識分野では,高い波長安定性を持つVCSELの導入が進んでいる。一部,分布帰還型レーザーも利用されてはいるものの,出力値が固定であること,調整に時間がかかること,消費電力が大きいことなどの欠点も多い。比較すると,低いコスト,高い光学的効率性,波長の安定性といった特徴を持つVCSELに一日の長があると言えるだろう。
散乱,伝送,吸収,反射,干渉,自己混合などを利用した光学センサーにおいて,VCSELの提供する安定性,効率性,正確性は大きな利点となる。反射式センサー,反射式イメージングや,対象の捕捉に使われる散乱技術など,汎用性も高い。また,正確な処置を必要とする,診断,治療,神経刺激,CRIなどでもVSCELが利用されている。
また,多素子のVCSELアレイによって光出力1 Wの連続発振が可能で,高い電力変換効率を持ちながら,フルエンスは低いという優秀なレーザーが実現できる。
LiDAR,航空宇宙,暗視システム,照明などでVCSELの利用が拡大している。3 Gb/s帯以上におけるLOS通信リンクでもVCSELが使われるようになっている。LEDと比較すると,消費電力が抑えられるため,近接センサーへのVCSELの導入も増加している。
ホームネットワーク,原子時計技術,データ通信におけるVCSELの利用は年々増加している。LEDと比較した場合のコストの低さと,高速性がその理由である。
安価で,携帯性に優れ,高速かつ省電力であるといった特性から,チップスケール原子時計の応用先は多様化している。
10 Gb/s,40 Gb/s,100 Gb/sのイーサネット,16 Gb/sのデータ通信用FCリンクなど,VCSELが15年以上にわたりデータ通信に貢献してきたことも忘れてはならない。
データ密度,データレート,消費電力が制約条件となるボード間,チップ間のインタフェースにもVCSELが導入されつつある。
予測期間中のVCSELへの需要は,高速データ通信の成長と足並みを揃えて,引き続き増加すると期待されている。中でも,1 Gb/sのPOFホームネットワーク市場の拡大が,低コストのVCSELへのニーズを高めることになるだろう。
また,VCSELはレーザープリンタでも好んで利用されている。回転多面鏡の回転数を上げることには限界があるため,VCSELアレイとの組み合わせにより高速化を図るのである。VCSELの利用は数種類のハイエンドプリンタに限定されていた。しかし,VCSELアレイの利用例が増加すれば,生産コストの低下,あるいは技術的な経験の蓄積から,他の技術との競合で優位なるのではないかと期待されている。