6. コスト効率が高く高性能な光学システムの実現
LIDARはクルマ周辺を3次元マップで表現する。それ自体はたいしたことがないと思われがちである。しかし,LIDARは独自のパルスを利用するため,周囲の環境とは独立して動作するという利点がある。すなわち,昼夜,天候,日向日陰を問わず,同じような性能を発揮することができるのである。また,LIDARの波長はレーダーよりも短く,将来的にはレーダーよりも高い解像度が実現する可能性がある。
しかしながら,LIDARには不利な点もいくつかある。まず,その価格である。高解像度LIDARは小規模で生産されるためクルマ本体より高額な場合さえある。例えば,初期のGoogleカーに搭載されたVelodyneのプロトタイプの価格は3万ドルであった。しかし,最新のLIDARは1,000ドル未満で販売されており,2020年までには1台850ドル程度まで安価になると期待されている。典型的なLIDARの測定距離は70メートル程度とされるが,クルマのような大きな物体であれば100メートル近くまで対応する。150μm周辺の波長を利用すればより高度なセンシングが可能となるが,価格も5,6倍に跳ね上がるため,現実的ではない。
カメラを含む光学センサーの性質上,LIDARは豪雨,雪,霧には弱い。2018年頃までに登場する商用ソリューションとの組み合わせで,これらの課題を解決する研究開発プログラムが進行中である。
光学部品のメンテナンスの問題も浮上してくる。まず,光子の関係上,着色ガラス越しの使用はできない。また,車外設置であれば,長期間にわたる保護とダメージ時の再調整という課題がある。
スキャニングにも問題が生じる可能性がある。まず,スキャンするクルマとスキャンの対象物がそれぞれ動くことにより映像が乱れる,動きのアーチファクトという現象が起こりうる。第二に,スキャニング機器にリンクするシステムのメンテナンスという問題がある。フラッシュLIDARという新しい技術を利用すれば,周辺すべてのスナップショットが一度に得られるため,動きのアーチファクト問題は解決する。フラッシュLIDARは,クルマ周辺にレーザー光を一斉に拡散照射し,その反射光をセンサーと時間計測回路のアレイで処理し,3次元処理画像を得る技術である。専用チップを利用すること,一斉照射に超強力なパルスが必要なことから,現時点では1台当たりの価格が高い。そのため,クルマへの導入の可能性が薄いが,将来的に適正価格まで値下がりすれば,自動車業界での採用が一気に進むだろう。