1. はじめに
ガラスは金属イオンや金属ナノ粒子をドープすることで色や性質を変化させることができ,様々に利用されている。一般的にはガラス製造時に金属を混入することで,全体を変化させる。このような全体的なドープではなく選択的にドープする方法として,溶融塩に浸漬したり1)電界を加える2, 3)ことで,表面近傍のみを変化させ,導波路を作成したり1)ガラスを強化したり4)している。これ以外にも,フェムト秒レーザをつかって,焦点近傍のみにエネルギーを加え価数変化させたり5),ナノ粒子を析出6, 7)することで,光学特性を変化させる方法が提案されている。
ところで著者らは,ガラス中において,直径数10μm程度の金属球を移動させる手法を提案している8)。これは,別の目的で実験をしている間に偶然発見したものである。ガラス中の金属球をレーザにより加熱溶融させ,この周囲のガラスを熱伝導により軟化させる。ガラスの軟化により金属球の移動が可能となる。
本稿では,まず,石英ガラス中でニッケル球を移動させたところ,その軌跡に数100 nm程度のニッケル微粒子が縞状に析出する現象9)について紹介する。その後,金属球の移動を引き起こすドライビングフォースについて述べる。金属球の表面では温度差がありレーザ照射側が高温になる。ガラスの界面張力は高温になると小さくなることから,界面張力によってガラスから金属球に加わる圧力はレーザが照射されている側が小さくなり,光源側に移動する10, 11)。これらの内容について述べる。
2. 実験方法
図1に示すように石英ガラス,ホウ珪酸ガラス,金属箔(ニッケル箔もしくはSUS304箔,3章についてはニッケル箔,4章についてはSUS304箔を使用している),さらに箔がよく密着するように別のガラスで挟み,治具で押さえ,連続発振の1μm帯のレーザを石英ガラス,ホウ珪酸ガラスを透過して金属箔に照射した。レーザ光はレンズで集光した。側面にCCDカメラを設置し,光軸とは直交する方向から観察し,金属球の移動を可視化している。CCDカメラの反対側から照明し,シャドウグラフで観察を行った。熱放射光などを除去し球の移動を可視化するために,CCDカメラの前にブルーパスフィルタを設置している。