月谷昌之介
イタリア,トスカーナの花の都,フィレンツェに彼は居る。1504年に完成された当時は,ヴェッキオ宮殿前の広場に置かれていたが,1873年に現在のアカデミア美術館に移された。ダビデ像。500年以上もの間,多くの人々をひきつけてきた天才ミケランジェロの傑作である。ダビデはイスラエルの二代目王で,エルサレムを都に定めた人物だ。
旧約聖書によると,彼はイスラエルの宿敵であったペリシテ軍の巨人兵ゴリアテとの一騎打ちで相手の額に見事に石を命中させて倒し,戦いに勝った。紀元前1000年頃の話である。時を経て中世の時代,周辺の列強に脅かされていたフィレンツェ共和国では人々の士気を盛り上げるために,小さき者が巨大な者に立ち向かって勝利する象徴としてダビデ像が作られた。
この春,機会があって僕はそのダビデ像を見に行ってきた。アカデミア美術館の広い回廊の突当たり,天井から光射すドームの真下に,ダビデは教科書で見たとおりの姿で立っていた。実物の存在感は圧倒的で,見た瞬間は鳥肌が立った。それにしても,見事に全裸だ。若い女性がじっと見みつめているのを目の当たりにすると,なんだかこちらが恥ずかしい。500年以上もこの格好で堂々と立っていたのだから,やはり大物である。
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