透明マント

(独)理化学研究所 田中拓男

1.はじめに

透明な魚がいることは良く知られており,観賞用としても飼育されている。有名なものはグラスフィッシュで,まさにガラスのような魚である。しかし全く透明かというとそうではない。頭部や骨,内臓,血液は透明ではなく,透明な体を透してこれらが見えている。2011年に葛飾臨海水族園でコオリウオという無色透明の血液を持つ魚を公開したというニュースを聞き,これこそ本当の透明魚かと期待した。確かに血液は透明らしいが,写真でその姿を見る限りは,普通の色素のある魚であった(しかもあまり可愛いらしくない顔だった)。

人には透明になりたいという欲望は古くからあるようで,透明人間の話題はあちこちのマンガやSF小説に出てくる。そもそも透明人間になりたいと思うのは,透明になる事自体や光を透す事が目的ではなく,裸を隠すために服を着るように他人の目から隠れる事が目的である。そしてさらには「他人に見つからずに,こっそり何かをやりたい」という欲望があるのだろう。その意味では,骨や内臓がすけすけに見えているグラスフィッシュの「透明性」は本末転倒で,最も恥ずかしい状態なのかもしれない。

この続きをお読みになりたい方は
読者の方はログインしてください。読者でない方はこちらのフォームから登録を行ってください。

ログインフォーム
 ログイン状態を保持する  

    新規読者登録フォーム

    同じカテゴリの連載記事

    • 情報通信の通信機能以外のご利益 2020年03月18日
    • 「どっちか」より「どっちも」 2020年03月03日
    • 聞くは一時の恥とは言いますが 2020年02月18日
    • 組織的積極的もの忘れ 2020年01月31日
    • 相撲放送を見ていて感じました 2020年01月17日
    • 成長期の「棚からぼた餅」 2020年01月06日
    • 喋りたいことが喋れる質問を 2019年12月17日
    • 分からないのにありがたい
      分からないのにありがたい 2019年12月02日