月谷昌之介
小学校低学年の頃,僕が誕生日のプレゼントに顕微鏡をねだったら父が意外にもあっさりと受け入れてくれた。もしかしたら父にとって僕が科学に目覚めていくことがうれしかったのかもしれない。
その顕微鏡で僕が最初に観察したものは自分の頭から抜いた一本の髪の毛だった。おまけで付いてきたスライドグラスにそれを載せ,カバーグラスを被せて,僕は意気揚々と顕微鏡を覗き込んだ。
焦点を合わせていくと見えてきたのは赤,緑,青,紫などの虹のような色で縁取られた髪の毛の影だった。そのときの驚きは今でも忘れられない。なにせ肉眼で見れば黒一色にしか見えない髪の毛の両脇が実は色鮮やかな模様で彩られていることを発見したのだから。
その後,様々なものを片端から観察したのだと思うが,覚えているのは何を見ても境界の部分に虹色の模様が見えていたことだけだ。さすがに子供だった僕でさえも,この色模様はサンプルのものではなく顕微鏡の性能によるものではないかと疑念をもったのであった。
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