4. 可視光応答型窒化ガリウム酸化亜鉛固溶体
前項で記したように,水分解用の光触媒材料や反応システムには近年目覚ましい進展が見られている。しかし,SrTiO3 は紫外光しか利用できないため,たとえ外部量子効率が100%になったとしても太陽エネルギー変換効率は1%程度が限界である。そのため,太陽光水分解反応による水素製造の実用化には可視光応答型光触媒の開発が必要不可欠である。筆者の研究室では様々な可視光応答性光触媒材料を研究しているが(図3),特に(酸)窒化物系,酸硫化物系の材料を長年研究している。本稿ではこの中でも,筆者が最近注力している窒化ガリウム(GaN)と酸化亜鉛(ZnO)の固溶体(GaN:ZnO)について最近の進展を述べる。
GaN:ZnOは酸化亜鉛の含有量が大きくなるにつれてバンドギャップが狭窄し,吸収端波長が長波長化する性質がある8)。また,適当な組成の固溶体を用いると,可視光照射下で比較的高い外部量子効率で水を分解できる9)。従来,粉末状のGaN:ZnOは出発原料をアンモニア気流中で長時間,加熱・窒化することで合成されてきた。しかし,合成中に酸化亜鉛が還元されて金属亜鉛になり,それが蒸発して系外に排出されるため,酸化亜鉛含有量が低下しやすい。一方,酸化亜鉛濃度を高くするために,出発原料を改良して窒化時間を短くする試みも知られるが,低結晶性のGaN:ZnOしか得ることができない10)。
つまり,従来の合成法では高い活性を出すのに必要な結晶性と,長波長の可視光吸収に必要なZnO濃度を両立できないという問題があった。一方,筆者らの研究グループは,窒素源としてアンモニアの代わりにアンモニウム塩を用い,出発原料を真空封管中で反応させることで,GaN:ZnOを合成できることを見出した11)。この方法では真空封管という閉鎖系を用いるため,合成中に酸化亜鉛含有量が低下することがなく,十分な時間をかけて高結晶性の材料を合成することができる。さらに,生成した固溶体に助触媒を担持することで,可視光水分解反応に活性を示すことも確かめられている。
しかし,アンモニウム塩の分解に伴い,副生成物として水素が生成する。水素は還元作用を持ち半導体の特性に悪影響をもたらす可能性があるうえ,爆発性がある。そのため,アンモニウム塩を用いる合成法では原料の総量を小さくせざるを得ず,GaN:ZnO合成をスケールアップすることもできない。