1. はじめに
ウェアラブルデバイスによるパーソナルヘルスケアは、予防医療や遠隔医療を実現することができるため、パンデミックや高齢化の進行する現代社会において非常に重要である。現在までに腕時計型や指輪型などのウェアラブルデバイスが商用化され、より当たり前に身につけるものとして普及した。
しかしながら、現在のウェアラブルデバイスは硬くて小さいという物理的な制約により、さまざまな問題がある。例えば、手首からしか生体情報を取得できないため、体温や関節の動きなどの正確な計測ができない。また、皮膚とデバイスの接触が安定しないため、運動中は正確に計測できない。さらに重要なことに、着け心地が悪く装着してもらえない問題がある。これは特に乳幼児や認知症患者に顕著な問題で、デバイスを外そうとしてしまうのを防げるくらい着け心地を自然なものにする必要がある。
これらの問題を一気に解決できる次世代ウェアラブルデバイスとして、皮膚のように柔らかい機械特性を持つ伸縮性電子デバイスが期待されている(図1)。1)湿布やタイツのように身体にフィットするため、装着箇所を選ばず運動中でも高精度で生体情報を取得できる。このような柔らかい電子デバイスを実現する上での大きなチャレンジの一つは、絶縁体の代表格であるようなゴムに高い電気特性を発現させることであった。
筆者らは、金属に匹敵するような高い導電性を持つ様々な伸縮性導体や伸縮性半導体材料を開発してきた。2,3)さらにこれらを用いた皮膚貼り付け型の次世代ウェアラブルデバイスのプロトタイプを作製してきた。ここでは特に、皮膚に密着して皮膚表面の光を制御するような電子デバイスの実現に重要な透明伸縮性導電材料の開発と、それを使って実現した伸縮性デバイス(透明センサ、ディスプレイ)について紹介していく。
2. 透明伸縮性導体
透明な伸縮性導体材料は、グラフェン、カーボンナノチューブなどのナノカーボン材料や、銀ナノワイヤ、導電性高分子などを用いて報告されている。4)特に導電性高分子を改質して得られる伸縮性導電性高分子は、高い生体適合性、低ヤング率など様々な優れた点を有する。導電性高分子の中でも高い導電性を示すPEDOT:PSS材料はそのままでは伸長性が低いが、イオン系添加剤や柔らかい高分子を加えることで導電性と伸長性を高めることができる。
筆者らは、伸縮性導電性高分子を塗布成膜する基材の機械特性が伸縮性導電性高分子の伸長性に大きく影響することを突き止め、元の長さの2.5倍以上に伸長してもクラックの生じない透明導電性高分子を実現することに成功した(図2)。さらに本材料はUVレーザーアブレーション法によって10μmを切る高解像度でパターニングすることもできる。高導電性・高伸長性の透明伸縮性導体が簡便に高解像度パターニングできるようになったので、これを用いて様々な応用探索を進めた。