LEDとCMOSイメージセンサによる光カメラ通信

4. マルチチャネル認証

図4 スマートフォンのディスプレイを用いたマルチチャネル認証デモ
図4 スマートフォンのディスプレイを用いたマルチチャネル認証デモ

インターネットへの接続デバイス数の増加に伴って,デバイス間で直接通信をするDevice-to-Device(D2D)が注目されている。D2Dの適用形態の1つとして,スマートフォン等を含めたユーザ端末同士で通信をリレーしモバイルネットワークを拡大する,といったことが挙げられる。

適切なD2D通信を行うことで,トラヒック需要変動に応じて動的にネットワークを拡張可能となる。D2D通信を実現する形態としては,大きく分けてセルラバンド(周波数)を用いるInband方式と,アンラインセンスバンドを用いるOutband方式がある。アンライセンスバンド通信の具体例としてはWi-FiやBluetoothの利用が挙げられ,セルラ通信との干渉が発生しないという大きな利点がある。

またOutband方式には,モバイルネットワークオペレータ(MNO)により制御される制御型と,制御を受けない自律型の2形態が存在し,本研究では後者に着目する。自律型D2Dは,MNOの管理負荷が低いという利点がある一方で,その大きな課題としてデバイス認証の難しさが挙げられる。すなわち,なりすましやMan-in-the-Middle (MITM)と呼ばれる攻撃の温床になりやすく,正当なデバイスを認証する仕組みが不可欠である。

上記の課題に対して,筆者らはOCCを用いたデバイス認証プロトコルを提案した5)。この手法は,OCCの光信号は,Wi-Fi等の電波とは異なり壁などを透過せず,また光の点滅パターンによって視覚的に,あるいは画像上で明示的に接続デバイスを確認できる点を利用している。

すなわち,Wi-Fi Directなどメインの通信チャネルで接続要求を行う際に,OCCの光チャネルでDiffie-Hellman法と呼ばれる暗号鍵の交換を行うことで,なりすましやMITM攻撃を防ぐ。筆者らは提案プロトコルをAndroidアプリとして実装し,スマートフォンのディスプレイとカメラを用いて,数メートルの距離で鍵交換が可能なことを確認している。さらに現在は,環境光への適応による読み取り精度の向上などを検討している。

5. まとめ

本稿では,新たな無線通信方式として期待されるOCCについて紹介した。OCCの適用により,照明や自動車のほか,デジタルサイネージなど様々なスマートデバイスを活用して情報を送受信することができる。Wi-FiやBluetooth等とは異なる周波数を用いることから,既存の通信との干渉がほとんどなく,またCSMA/CAのような同一チャネル干渉回避機構が不要なため一対多通信に適するといったメリットがある。

上述の通り筆者らは, OCCについて理論からアプリケーションまで幅広い検討を進めている。本稿では触れていないが,他にも高速化や高精度化の手法を検討しており,また今後,水中通信をはじめとした新たな活用法を開発していく予定である。

参考文献
1) Yukito Onodera, Hiroki Takano, Daisuke Hisano, Yu Nakayama, “Avoiding Inter-Light Sources Interference in Optical Camera Communication”, IEEE Global Telecommunications Conference (GLOBECOM), Madrid, Spain, Dec. 2021.
2) Hiroki Takano, Daisuke Hisano, Mutsuki Nakahara, Kosuke Suzuoki, Kazuki Maruta, Yukito Onodera, Ryo Yaegashi, Yu Nakayama, “Visible Light Communication on LED-equipped Drone and Object-Detecting Camera for Post-Disaster Monitoring”, IEEE 93th Vehicular Technology Conference (VTC-Spring), Helsinki, Finland, Apr. 2021.
3) Yukito Onodera, Hiroki Takano, Daisuke Hisano, Yu Nakayama,“Drone Positioning for Visible Light Communication with Drone-Mounted LED and Camera”, IEEE 19th Annual Consumer Communications & Networking Conference (CCNC), Las Vegas, USA, Jan. 2022.
4) Yukito Onodera, Hiroki Takano, Daisuke Hisano, Yu Nakayama, “Adaptive N+1 Color Shift Keying for Optical Camera Communication”, IEEE 94th Vehicular Technology Conference (VTC-Fall), Virtual, Sep. 2021.
5) Tianwen Li, Yukito Onodera, Daisuke Hisano, Yu Nakayama, “Multi-Channel Authentication for Secure D2D using Optical Camera Communication”, IEEE 19th Annual Consumer Communications & Networking Conference (CCNC), Las Vegas, USA, Jan. 2022.

■Optical Camera Communication with LED and CMOS Image Sensor
■Yu Nakayama

■Associate Professor, Institute of Engineering, Tokyo University of Agriculture and Technology

ナカヤマ ユウ
所属:東京農工大学 工学研究院 准教授

(月刊OPTRONICS 2022年2月号)

このコーナーの研究は技術移転を目指すものが中心で,実用化に向けた共同研究パートナーを求めています。掲載した研究に興味があり,執筆者とコンタクトを希望される方は編集部までご連絡ください。 また,このコーナーへの掲載を希望する研究をお持ちの若手研究者注)も随時募集しております。こちらもご連絡をお待ちしております。
月刊OPTRONICS編集部メールアドレス:editor@optronics.co.jp
注)若手研究者とは概ね40歳くらいまでを想定していますが,まずはお問い合わせください。

同じカテゴリの連載記事

  • 竹のチカラで紫外線による健康被害を防ぐ 鹿児島大学 加治屋勝子 2024年12月10日
  • 光周波数コムを用いた物体の運動に関する超精密計測と校正法 東北大学 松隈 啓 2024年11月10日
  • こすると発光色が変わる有機結晶の合理的創製 横浜国立大学 伊藤 傑 2024年10月10日
  • 光ウェアラブルセンサによる局所筋血流と酸素消費の非侵襲同時計測 明治大学 小野弓絵 2024年09月10日
  • 関心領域のみをすばやく分子分析するラマン分光技術 大阪大学 熊本康昭 2024年08月12日
  • 熱画像解析による土壌有機物量計測技術の開発 大阪工業大学 加賀田翔 2024年07月10日
  • 組織深部を可視化する腹腔鏡用近赤外分光イメージングデバイスの開発 (国研)産業技術総合研究所 髙松利寛 2024年06月10日
  • 8の字型構造の活用による高効率円偏光発光を示す第3世代有機EL材料の開発 名古屋大学 福井識人 2024年05月07日